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Imported Upstream version 2.19.45
[lilypond.git] / Documentation / ja / learning / tweaks.itely
1 @c -*- coding: utf-8; mode: texinfo; documentlanguage: ja -*-
2
3 @ignore
4     Translation of GIT committish: c1b0482f63f881bd3f67845e5f76a3e04675ef2a
5
6     When revising a translation, copy the HEAD committish of the
7     version that you are working on.  For details, see the Contributors'
8     Guide, node Updating translation committishes..
9 @end ignore
10
11 @c \version "2.19.22"
12
13 @c Translators: Yoshiki Sawada
14 @c Translation status: post-GDP
15
16
17 @node 出力を調整する
18 @chapter 出力を調整する
19 @translationof Tweaking output
20
21 この章では出力を変更する方法について議論します。@c
22 LilyPond は本当にさまざまな設定が可能です。@c
23 もしかすると出力のすべての部分が変更されるかもしれません。
24
25 @menu
26 * 調整の基本::
27 * 内部リファレンス マニュアル::
28 * オブジェクトの見た目::
29 * オブジェクトの配置::
30 * オブジェクトの衝突::
31 * 更なる調整::
32 @end menu
33
34 @node 調整の基本
35 @section 調整の基本
36 @translationof Tweaking basics
37
38 @menu
39 * 調整の紹介::
40 * オブジェクトとインタフェイス::
41 * オブジェクトとプロパティの命名規則::
42 * 調整手段::
43 @end menu
44
45
46 @node 調整の紹介
47 @subsection 調整の紹介
48 @translationof Introduction to tweaks
49
50 @q{調整} は入力ファイルの解釈中にとられるアクションを変更し、@c
51 譜刻される楽譜の見た目を変更するためにユーザが利用可能なさまざまな手段を指す
52 LilyPond の用語です。@c
53 いくつかの調整はとても簡単に使うことができます。@c
54 他の調整はもっと複雑です。@c
55 しかしながら、調整のために利用可能な手段を組み合わせることによって、@c
56 ほとんどいかなる望みの見た目を持った楽譜でも譜刻することが可能になります。
57
58 このセクションでは、調整を理解するのに必要な基礎となるコンセプトを@c
59 カバーします。@c
60 その後、コピーするだけで効果が得られる作成準備が完了している@c
61 さまざまなコマンドについての情報を提供し、@c
62 同時に、あなたがあなた自身の調整を開発する方法を学べるように@c
63 それらのコマンドがどのように構築されるのかを示します。
64
65 この章を読み始める前に、あなたは @ref{コンテキストとエングラーバ} を@c
66 再読することを望むかもしれません。@c
67 なぜなら、コンテキスト、エングラーバとそれらの中に含まれるプロパティは@c
68 調整について理解し、調整を構成するための基礎だからです。
69
70
71 @node オブジェクトとインタフェイス
72 @subsection オブジェクトとインタフェイス
73 @translationof Objects and interfaces
74
75 @cindex object (オブジェクト)
76 @cindex grob (グラフィカル オブジェクト)
77 @cindex spanner (スパナ)
78 @cindex interface (インタフェイス)
79 @cindex properties, object (オブジェクト プロパティ)
80 @cindex object properties (オブジェクト プロパティ)
81 @cindex layout object (レイアウト プロパティ)
82 @cindex object, layout (レイアウト プロパティ)
83
84 調整には LilyPond プログラムの内部オペレーションと構造体への変更も含まれます。@c
85 そのため、我々はまずそれらの内部オペレーションと構造体を記述するために@c
86 使用されるいくつかの用語を導入しなければなりません。
87
88 @q{オブジェクト} という用語は入力ファイルを処理している最中に LilyPond に@c
89 よってビルドされる多くの内部構造体を参照するために使われる汎用的な用語です。@c
90 LilyPond が @code{\new Staff} のようなコマンドに遭遇した場合、@c
91 タイプ @code{Staff} の新しいオブジェクトを構築します。@c
92 その @code{Staff} オブジェクトは、その譜のコンテキスト内部で機能するために@c
93 割り当てられているエングラーバの詳細とともに、その譜に関連付けられている@c
94 すべてのプロパティ -- 例えば、その譜の名前、調号 -- を保持します。@c
95 同様に、@code{Voice} オブジェクト、@code{Score} オブジェクト、@c
96 @code{Lyrics} オブジェクトなどの他のすべてのコンテキストのプロパティを@c
97 保持するためのオブジェクトが存在し、さらに、小節線、符頭、タイ、強弱記号などの@c
98 すべての記譜要素を表すためのオブジェクトも存在します。@c
99 各オブジェクトはそれ自体のプロパティ値のセットを持ちます。
100
101 いくつかのタイプのオブジェクトには特別な名前が与えられています。@c
102 符頭、符幹、スラー、タイ、運指記号、音部記号などの譜刻される出力上の記譜要素を@c
103 表すオブジェクトは @q{レイアウト オブジェクト} と呼ばれ、@c
104 しばしば @q{グラフィカル オブジェクト}
105 あるいは短くして @q{グロッブ (Grob: GRaphical OBject)} と呼ばれます。@c
106 これらのオブジェクトも上記の汎用的な観点から見るとオブジェクトであり、@c
107 それゆえ、それらもまたそれらのオブジェクトに関連付けされたプロパティ --
108 そのオブジェクトの位置、サイズ、色など -- を持ちます。
109
110 いくつかのレイアウト オブジェクトも特別です。@c
111 フレージング スラー、クレッシェンド、オッターバ記号、@c
112 他の多くのグラフィカル オブジェクトが置かれる場所は一点ではありません
113  -- それらは開始点、終了点、そしておそらくそれらの形に関係する@c
114 他のプロパティを持ちます。@c
115 これらのオブジェクトのように形が伸長されるオブジェクトは
116 @q{スパナ (Spanners)} と呼ばれます。
117
118 @q{インタフェイス} とは何なのかという説明が残っています。@c
119 多くのオブジェクト -- たとえそれらが非常に異なっていたとしても --
120 は同じ方法で処理される必要がある共通特徴を共有します。@c
121 例えば、すべてのグラフィカル オブジェクトは色、サイズ、位置などを持ち、@c
122 これらのプロパティはすべて LilyPond が入力ファイルを構文解釈する最中に@c
123 同じ方法で処理されます。@c
124 これらの内部オペレーションを簡潔にするために、これらの共通アクションと@c
125 プロパティは 1 つのグループとして
126 @code{grob-interface} と呼ばれるオブジェクトにまとめられています。@c
127 これと同じような共有プロパティのグループ化が他にも多くあり、@c
128 それぞれに対して最後に @code{interface} が付く名前が与えられています。@c
129 そのようなインタフェイスの総数は 100 を越えます。@c
130 我々は後でなぜこれがユーザにとって利益となり、役に立つのかを見ていきます。
131
132 これらは、我々がこの章で使用するオブジェクトと関係する主要な用語です。
133
134
135 @node オブジェクトとプロパティの命名規則
136 @subsection オブジェクトとプロパティの命名規則
137 @translationof Naming conventions of objects and properties
138
139 @cindex naming conventions for objects (オブジェクトの命名規則)
140 @cindex naming conventions for properties (プロパティの命名規則)
141 @cindex objects, naming conventions (オブジェクトの命名規則)
142 @cindex properties, naming conventions (プロパティの命名規則)
143
144 我々は以前にも @ref{コンテキストとエングラーバ} で@c
145 いくつかのオブジェクト命名規則を見てきました。@c
146 ここで参照のために、最も一般的なオブジェクトとプロパティをリストアップし、@c
147 それに加えてそれらの命名規則と実際の名前の例を挙げます。@c
148 何らかの大文字のアルファベットを表すために @q{A} を使用し、@c
149 いくつかの小文字のアルファベットを表すために @q{aaa} を使用しています。@c
150 他の文字は実際の命名でもそのまま使用されます。
151
152 @multitable @columnfractions .33 .33 .33
153 @headitem オブジェクト/プロパティのタイプ
154   @tab 命名規則
155   @tab 例
156 @item コンテキスト
157   @tab Aaaa や AaaaAaaaAaaa
158   @tab Staff, GrandStaff
159 @item レイアウト オブジェクト
160   @tab Aaaa や AaaaAaaaAaaa
161   @tab Slur, NoteHead
162 @item エングラーバ
163   @tab Aaaa_aaa_engraver
164   @tab Clef_engraver, Note_heads_engraver
165 @item インタフェイス
166   @tab aaa-aaa-interface
167   @tab grob-interface, break-aligned-interface
168 @item コンテキスト プロパティ
169   @tab aaa や aaaAaaaAaaa
170   @tab alignAboveContext, skipBars
171 @item レイアウト オブジェクト プロパティ
172   @tab aaa や aaa-aaa-aaa
173   @tab direction, beam-thickness
174 @end multitable
175
176 これから見ていくのですが、タイプが異なるオブジェクトのプロパティは@c
177 異なるコマンドによって変更されます。@c
178 そのため、名前からオブジェクトやプロパティのタイプを識別できるように@c
179 なると役に立ちます。
180
181
182 @node 調整手段
183 @subsection 調整手段
184 @translationof Tweaking methods
185
186 @cindex tweaking methods (調性手段)
187
188 @menu
189 * \override コマンド::
190 * \revert コマンド::
191 * \once 接頭辞::
192 * \overrideProperty コマンド::
193 * \tweak コマンド::
194 @end menu
195
196 @node \override コマンド
197 @unnumberedsubsubsec @code{\override} コマンド
198 @translationof The \override command
199
200 @cindex override command (override コマンド)
201 @cindex override syntax (override 構文)
202
203 @funindex \override
204
205 我々はすでに @ref{コンテキスト プロパティを変更する} と
206 @ref{エングラーバを追加 / 削除する} で @strong{コンテキスト} のプロパティを@c
207 変更したり、@strong{エングラーバ} を追加/削除したりするために使用するコマンド
208 @code{\set} と @code{\with} を見てきました。@c
209 ここでは更に重要ないくつかのコマンドについて見ていきます。
210
211 @strong{レイアウト オブジェクト} のプロパティを変更するためのコマンドは
212 @code{\override} です。@c
213 このコマンドは LilyPond の奥深くにある内部プロパティを@c
214 変更しなければならないため、@c
215 これまで見てきたコマンドのように単純な構文ではありません。@c
216 どのコンテキストの中にあるどのオブジェクトのどのプロパティを@c
217 変更しなければならないのか、そこにセットする新しい値を何にするのかを@c
218 正確に知っている必要があります。@c
219 どのようにこれを行うのかを見ていきましょう。
220
221 このコマンドの一般的な構文は以下のようなものです:
222
223 @example
224 \override @var{Context}.@var{LayoutObject}.@var{layout-property} = #@var{value}
225 @end example
226
227 @noindent
228 これは @var{Context} コンテキストのメンバである
229 @var{LayoutObject} という名前のレイアウトの
230 @var{layout-property} という名前のプロパティに値 @var{value} をセットします。
231
232 必要とされているコンテキストが明白であり、それが最下位レベルのコンテキストである
233 -- つまり、@code{Voice}, @code{ChordNames} や @code{Lyrics} である
234 -- 場合、その @var{Context} は省略可能であり (そして通常は省略されます)、@c
235 この後の例の多くでも省略します。@c
236 後ほど、コンテキストを指定しなければならない場合について見ていきます。
237
238 これから後のセクションでは広範囲に亘るプロパティとそれらの値を扱います
239 -- @ref{Types of properties} を参照してください。@c
240 しかしながら、このセクションではそれらのフォーマットとコマンドの使い方を示す@c
241 ために、容易に理解できる簡単なプロパティと値をいくつか使用してみるだけです。
242
243 LilyPond の基本的な表記は音符、演奏時間、それにマークアップなどの音楽要素@c
244 です。@c
245 数字、文字列、それにリストなどのもっと基本的な表記は @q{Scheme モード}
246 で処理されます -- 表記の先頭に @samp{#} を記述することでこのモードが@c
247 呼び出されます。@c
248 これらの表記は LilyPond の音楽モードでも有効な表現である場合もありますが、@c
249 このマニュアルでは一貫性を保つために常に @samp{#} を付けて記述します。@c
250 Scheme モードについての更なる情報は @rextend{LilyPond Scheme syntax}
251 を参照してください。
252
253 @code{\override} は調整で用いられる最も一般的なコマンドであり、@c
254 本章の残りの大半を使ってこのコマンドの使用例を示します。@c
255 まずは符頭の色を変更する簡単な例を挙げます:
256
257 @cindex color property, example (color プロパティの例)
258 @cindex NoteHead, example of overriding (NoteHead をオーバライドする例)
259
260 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
261 \relative {
262   c'4 d
263   \override NoteHead.color = #red
264   e4 f |
265   \override NoteHead.color = #green
266   g4 a b c |
267 }
268 @end lilypond
269
270
271 @node \revert コマンド
272 @unnumberedsubsubsec @code{\revert} コマンド
273 @translationof The \revert command
274
275 @cindex revert command (revert コマンド)
276
277 @funindex \revert
278
279 一旦オーバライドされると、そのプロパティは再度オーバライドされるか
280 @code{\revert} コマンドに遭遇するまで新しい値のままでいます。@c
281 @code{\revert} コマンドは以下の構文を持ち、@c
282 プロパティの値をオリジナルのデフォルト値に戻します。@c
283 何度か @code{\override} コマンドが発行されている場合は、@c
284 前の値に戻すわけではないということに注意してください。
285
286
287 @example
288 \revert @var{Context}.@var{LayoutObject}.@var{layout-property}
289 @end example
290
291 繰り返しますが、@code{\override} コマンドでの @var{Context} と同様に、@c
292 多くの場合で @var{Context} を記述する必要はありません。@c
293 以下の例の多くで、@var{Context} は省略されます。@c
294 ここでは、最後の 2 つの音符の符頭の色をデフォルトに戻します:
295
296 @cindex color property, example (color プロパティの例)
297 @cindex NoteHead, example of overriding (NoteHead をオーバライドする例)
298
299 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
300 \relative {
301   c'4 d
302   \override NoteHead.color = #red
303   e4 f |
304   \override NoteHead.color = #green
305   g4 a
306   \revert NoteHead.color
307   b4 c |
308 }
309 @end lilypond
310
311
312 @node \once 接頭辞
313 @unnumberedsubsubsec The @code{\once} prefix
314 @translationof The \once prefix
315
316 @funindex \once
317
318 @code{\override} コマンドと @code{\set} コマンドには両方とも@c
319 接頭辞 @code{\once} が付く可能性があります。@c
320 これはその後に続く @code{\override} や @code{\set} コマンドを@c
321 その場一回限り有効にし、その後にそのプロパティの値をデフォルト値に戻します。@c
322 上と同じ例を使って、以下のように 1 つだけの音符の色を変更することができます:
323
324 @cindex color property, example (color プロパティの例)
325 @cindex NoteHead, example of overriding (NoteHead をオーバライドする例)
326
327 @lilypond[quote,verbatim]
328 \relative {
329   c'4 d
330   \override NoteHead.color = #red
331   e4 f |
332   \once \override NoteHead.color = #green
333   g4 a
334   \revert NoteHead.color
335   b c |
336 }
337 @end lilypond
338
339 @code{\once} 接頭辞をさまざまな定義済みコマンドの前に置くことで、@c
340 コマンドの効果を次の音楽タイミングに限定することもできます:
341
342 @lilypond[quote,verbatim,relative=1]
343 c4 d
344 \once \stemDown
345 e4 f |
346 g4 a
347 \once \hideNotes
348 b c |
349 @end lilypond
350
351 しかしながら、@code{\...Neutral}, @code{\...Off}, それに @code{\un...}
352 の形式の定義済みコマンドの前に @code{\once} を置いても効果はありません。@c
353 なぜなら、それらのコマンドは内部的に @code{\override} ではなく、@code{\revert}
354 を用いるためです。
355
356
357 @node \overrideProperty コマンド
358 @unnumberedsubsubsec @code{\overrideProperty} コマンド
359 @translationof The \overrideProperty command
360
361 @cindex overrideProperty command (overrideProperty コマンド)
362
363 @funindex \overrideProperty
364
365 オーバライド コマンドには @code{\overrideProperty} という@c
366 もう 1 つのフォーマットがあり、時々必要となります。@c
367 完璧を期すためにここでこれに言及しましたが、@c
368 詳細は @rextend{Difficult tweaks} を参照してください。
369 @c Maybe explain in a later iteration  -td
370
371 @node \tweak コマンド
372 @unnumberedsubsubsec @code{\tweak} コマンド
373 @translationof The \tweak command
374
375 @cindex tweak command (tweak コマンド)
376
377 @funindex \tweak
378
379 利用可能な最後の調整コマンドは @code{\tweak} です。@c
380 これは同じ音楽タイミングで発生するいくつかのオブジェクトのうち、@c
381 1 つのオブジェクトだけを選択してプロパティを変更したい場合に@c
382 使用します
383 -- 例えば、和音の中にある 1 つの音符のプロパティを変更する場合です。@c
384 @code{\override} コマンドを使用すると和音の中にあるすべての音符に@c
385 影響を与えます。@c
386 一方、@code{\tweak} は入力ストリームの中でその @code{\tweak} の@c
387 すぐ後にある要素 1 つだけに影響を与えます。
388
389 ここで例を挙げます。@c
390 C メジャー コードの中にある真ん中の音符 (ミドル E) の符頭のサイズを@c
391 変更したいとします。@c
392 まず最初に、@code{\once \override} だとどうなるか見てみましょう:
393
394 @cindex font-size property, example (font-size プロパティの例)
395 @cindex NoteHead, example of overriding (NoteHead をオーバライドする例)
396
397 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
398 \relative {
399   <c' e g>4
400   \once \override NoteHead.font-size = #-3
401   <c e g>4
402   <c e g>4
403 }
404 @end lilypond
405
406 このオーバライドは和音の中にある@emph{すべて}の符頭に影響を与えています。@c
407 これは和音の中にあるすべての音符が同じ @emph{タイミング} で起こるためであり、@c
408 @code{\once} のアクションは @code{\override} と同様に同じタイミングで起こる、@c
409 指定されたタイプすべてのレイアウト オブジェクトへのオーバライドに適用されます。
410
411 @code{\tweak} コマンドはこれとは異なるやり方で処理されます。@c
412 これは入力ストリームの中ですぐ後に続く要素にだけ作用します。@c
413 最もシンプルな形式の @code{\tweak} コマンドは、@c
414 コマンドの直後にある要素から直接作成されるオブジェクト
415 -- 本質的に符頭とアーティキュレーション -- にだけ効果を持ちます。@c
416
417 それでは例に戻り、この方法で和音の真ん中の音符のサイズを変更します:
418
419 @cindex font-size property, example (font-size プロパティの例)
420 @cindex @code{\tweak}, example (@code{\tweak} の例)
421
422 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
423 \relative {
424   <c' e g>4
425   <c \tweak font-size #-3 e g>4
426 }
427 @end lilypond
428
429 @code{\tweak} の構文は @code{\override} コマンドの構文とは@c
430 異なるということに注意してください。@c
431 コンテキストを指定しません -- 実際、指定するとエラーになります。@c
432 コンテキストとレイアウト オブジェクトはどちらも入力ストリームの中で@c
433 後に続く要素によって示されます。@c
434 さらに、イコール記号を使うべきではないということに注意してください。@c
435 そのため、簡単な形式の @code{\tweak} コマンドは以下のようになります:
436
437 @example
438 \tweak @var{layout-property} #@var{value}
439 @end example
440
441 さらに、@code{\tweak} コマンドは一連のアーティキュレーションの中にある@c
442 ただ 1 つのアーティキュレーションを変更されるためにも使用できます。@c
443 ここに例を挙げます:
444
445 @cindex color property, example (color プロパティの例)
446 @cindex @code{\tweak}, example (@code{\tweak} の例)
447
448 @lilypond[quote,fragment,ragged-right,verbatim]
449 a'4^"Black"
450   -\tweak color #red ^"Red"
451   -\tweak color #green _"Green"
452 @end lilypond
453
454 @noindent
455 @code{\tweak} コマンドはアーティキュレーション マークの前に配置する@c
456 必要があることに注意してください。@c
457 なぜなら、調整された表記がアーティキュレーションとして適用される必要がある@c
458 ためです。@c
459 複数の向き記号 (@code{^} または @code{_}) で上書きした場合、@c
460 最後に適用される左端の記号が勝ち残ります。
461
462 @cindex @code{\tweak}, Accidental (臨時記号に @code{\tweak} を用いる)
463 @cindex @code{\tweak}, specific layout object (レイアウト オブジェクトを指定して @code{\tweak} を用いる)
464
465 符幹や臨時記号などのオブジェクトは後になってから作成されるもので、@c
466 @code{\tweak} コマンドの後に続くイベントから直接作成されません。@c
467 そのような直接作成されないオブジェクトの場合、明示的にレイアウト
468 オブジェクト名を指定して LilyPond がそれらのオブジェクトの起源を@c
469 追跡できるようにすることで、@code{\tweak} で調整することができます:
470
471 @lilypond[quote,fragment,ragged-right,verbatim]
472 <\tweak Accidental.color #red   cis''4
473  \tweak Accidental.color #green es''
474  g''>
475 @end lilypond
476
477 この長い形式の @code{\tweak} コマンドは以下のように記述することができます:
478
479 @example
480 \tweak @var{layout-object}.@var{layout-property} @var{value}
481 @end example
482
483 @cindex tuplets, nested (ネストされた連符)
484 @cindex triplets, nested (ネストされた 3 連符)
485 @cindex bracket, tuplet (連符の囲み)
486 @cindex bracket, triplet (3 連符の囲み)
487 @cindex tuplet bracket (連符の囲み)
488 @cindex triplet bracket (3 連符の囲み)
489
490 @funindex TupletBracket
491
492 さらに、@code{\tweak} コマンドは、同時に起こるネストされた@c
493 連符記号のセットのうちの 1 つの見た目を変更するためにも使用されます。@c
494 以下の例では、長い連符記号と 3 つの短い連符記号のうちの最初の連符記号が@c
495 同時に起こります。@c
496 そのため、@code{\override} コマンドだと両方の連符記号に@c
497 適用されてしまいます。@c
498 この例では、@code{\tweak} は 2 つの連符記号を区別するために@c
499 使用されています。@c
500 最初の @code{\tweak} コマンドは長い連符記号を音符の上に置くことを@c
501 指定していて、2 番目の @code{\tweak} コマンドは最初の短い連符記号の数字を@c
502 赤で描くことを指定しています。
503
504 @cindex @code{\tweak}, example (@code{\tweak} の例)
505 @cindex direction property, example (direction プロパティの例)
506 @cindex color property, example (color プロパティの例)
507
508 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
509 \relative c'' {
510   \tweak direction #up
511   \tuplet 3/4 {
512     \tweak color #red
513     \tuplet 3/2 { c8[ c c] }
514     \tuplet 3/2 { c8[ c c] }
515     \tuplet 3/2 { c8[ c c] }
516   }
517 }
518 @end lilypond
519
520 ネストされた連符が同時に起こらない場合、それらの見た目は @code{\override}
521 コマンドを用いた通常通りの方法で変更されるかもしれません:
522
523 @cindex text property, example (text プロパティの例)
524 @cindex tuplet-number function, example (tuplet-number 関数の例)
525 @cindex transparent property, example (transparent プロパティの例)
526 @cindex TupletNumber, example of overriding (TupletNumber をオーバライドする例)
527
528 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
529 \relative {
530   \tuplet 3/2 { c'8[ c c] }
531   \once \override TupletNumber.text = #tuplet-number::calc-fraction-text
532   \tuplet 3/2 {
533     c8[ c]
534     c8[ c]
535     \once \override TupletNumber.transparent = ##t
536     \tuplet 3/2 { c8[ c c] }
537     \tuplet 3/2 { c8[ c c] }
538   }
539 }
540 @end lilypond
541
542
543 @seealso
544 記譜法リファレンス:
545 @ruser{The tweak command}
546
547
548 @node 内部リファレンス マニュアル
549 @section 内部リファレンス マニュアル
550 @translationof The Internals Reference manual
551
552 @cindex Internals Reference (内部リファレンス)
553
554 @menu
555 * レイアウト オブジェクトのプロパティ::
556 * インタフェイスの中で見つかるプロパティ::
557 * プロパティのタイプ::
558 @end menu
559
560 @node レイアウト オブジェクトのプロパティ
561 @subsection レイアウト オブジェクトのプロパティ
562 @translationof Properties of layout objects
563
564 @cindex properties of layout objects (レイアウト オブジェクトのプロパティ)
565 @cindex properties of grobs (グラフィカル オブジェクトのプロパティ)
566 @cindex grobs, properties of (グラフィカル オブジェクトのプロパティ)
567 @cindex layout objects, properties of (レイアウト オブジェクトのプロパティ)
568 @cindex Internals Reference manual (内部リファレンス マニュアル)
569
570 あなたがスラーを楽譜に描き、@c
571 そのスラーが細すぎるためにもう少し太くしたいと思ったとします。@c
572 どうやってスラーを太くしますか?@c
573 以前に LilyPond の自由度の高さについて述べたので、@c
574 そのようなことが可能であることは知っています。@c
575 あなたはおそらく @code{\override} コマンドが必要であると推測するでしょう。@c
576 しかしながら、スラーの太さプロパティは存在するのでしょうか?@c
577 そして、それが存在するならどうやって変更するのでしょうか?@c
578 このようなことに内部リファレンス マニュアルは触れています。@c
579 内部リファレンス マニュアルには、あなたがスラーを太くするために必要な情報、@c
580 他のすべての @code{\override} コマンドを構築するために必要な情報が@c
581 含まれています。
582
583 内部リファレンスを見ていく前に一言警告です。@c
584 これは @strong{リファレンス} ドキュメントであり、@c
585 説明はほんの少しかまったく含まれていません:
586 リファレンスの目的は情報を正確に、かつ簡潔に提供することです。@c
587 そのため、内部リファレンスを一見してひるんでしまうかもしれません。@c
588 しかし、心配しないでください!@c
589 ここにあるガイダンスと説明を読めば、少し練習するだけで、@c
590 内部リファレンスから必要な情報を取り出せるようになります。
591
592 @cindex override example (オーバライドの例)
593 @cindex Internals Reference, example of using (内部リファレンスの使用例)
594 @cindex @code{\addlyrics} example (@code{\addlyrics} の例)
595
596 実際の音楽からの簡単な断片を持つ具体例を使用していきましょう:
597
598 @c Mozart, Die Zauberflöte Nr.7 Duett
599
600 @lilypond[quote,verbatim]
601 {
602   \key es \major
603   \time 6/8
604   \relative {
605     r4 bes'8 bes[( g]) g |
606     g8[( es]) es d[( f]) as |
607     as8 g
608   }
609   \addlyrics {
610     The man who | feels love's sweet e -- | mo -- tion
611   }
612 }
613 @end lilypond
614
615 ここで、スラーをもう少し太くしようと決めたことにします。@c
616 それは可能でしょうか?@c
617 スラーは確かにレイアウト オブジェクトです。@c
618 そのため、その疑問は
619 @q{スラーに属していて、太さを制御するプロパティは存在するのか?}
620 ということになります。@c
621 その答えを得るために内部リファレンス -- 縮めて IR -- を見なければなりません。
622
623 あなたが使用しているバージョンの LilyPond のための内部リファレンスは
624 LilyPond ウェブサイト @uref{http://lilypond.org} で見つかるでしょう。@c
625 ドキュメント ページに行き、内部リファレンスへのリンクをクリックしてください。@c
626 学習目的のためには標準の HTML バージョンを使うべきであり、@c
627 @q{1 つの大きなページ} や PDF を使うべきではありません。@c
628 次の数段落を読めば、あなたが内部リファレンスを読むときに@c
629 実際にすべきことがわかるでしょう。
630
631 内部リファレンスの @strong{トップ ページ} 下には 5 つのリンクがあります。@c
632 @emph{Backend} へのリンクを選択してください。@c
633 そこにはレイアウト オブジェクトについての情報があります。@c
634 @strong{Backend} 下にある @emph{All layout objects} へのリンクを@c
635 選択してください。@c
636 そのページには、あなたが使用しているバージョンの LilyPond で使用される@c
637 すべてのレイアウト オブジェクトがアルファベット順で@c
638 リストアップされています。@c
639 Slur へのリンクを選択すると、Slur のプロパティがリスト アップされます。
640
641 記譜法リファレンスからこのページを見つける方法もあります。@c
642 スラーについて扱っているページで、内部リファレンスへのリンクが@c
643 見つかるかもしれません。@c
644 このリンクでこのページに直接行くことができます。@c
645 しかしながら、あなたが調整するレイアウト オブジェクトの名前を@c
646 想像できる場合は、すぐに内部リファレンスに行ってそこで探す方が簡単です。
647
648 内部リファレンスの Slur ページでは、まず Slur オブジェクトは
649 @code{Slur_engraver} によって作成されるということが述べられています。@c
650 それから、標準設定がリストアップされています。@c
651 スラーの太さを制御していそうなプロパティを探してブラウザをスクロール ダウン@c
652 させていくと、以下が見つかります:
653
654 @example
655 @code{thickness} (number)
656      @code{1.2}
657      Line thickness, generally measured in @code{line-thickness}
658 @end example
659
660 これが太さを変更するプロパティのようです。@c
661 @code{thickness} の値は @emph{数} であり、デフォルト値は 1.2、@c
662 この値は他のプロパティでは @code{line-thickness} と@c
663 呼ばれるということがわかります。
664
665 前にも言ったように、内部リファレンスには説明がほとんど、@c
666 あるいはまったくありません。@c
667 しかしながら、すでにスラーの太さを変えるための十分な情報を持っています。@c
668 レイアウト オブジェクトの名前は @code{Slur} であり、@c
669 変更するプロパティの名前は @code{thickness} であり、@c
670 スラーをもっと太くするには新しい値を 1.2 よりも大きくすべきであることが@c
671 わかります。
672
673 今度は、レイアウト オブジェクト名で見つけた値を置き換えることによって
674 @code{\override} コマンドを構築することができます。@c
675 コンテキストは省略します。@c
676 最初は太さに非常に大きな値を割り当ててみます。@c
677 それによって、そのコマンドが確かに機能していることを確かめることができます。@c
678 実行するコマンドは以下のようになります:
679
680 @example
681 \override Slur.thickness = #5.0
682 @end example
683
684 新しい値の前に @code{#} を付けることを忘れないでください!
685
686 最後の疑問は @q{このコマンドをどこに置くべきか?} ということです。@c
687 そのことについて不確かであり、学んでいる最中であるのならば、@c
688 ベストな答えはこうです @q{音楽表記の内部で、最初のスラーの直前}。@c
689 ではやってみましょう:
690
691 @cindex Slur example of overriding (Slur をオーバライドする例)
692 @cindex thickness property, example (thickness プロパティの例)
693
694 @lilypond[quote,verbatim]
695 {
696   \key es \major
697   \time 6/8
698   \relative {
699     % Increase thickness of all following slurs from 1.2 to 5.0
700     \override Slur.thickness = #5.0
701     r4 bes'8 bes[( g]) g |
702     g8[( es]) es d[( f]) as |
703     as8 g
704   }
705   \addlyrics {
706     The man who | feels love's sweet e -- | mo -- tion
707   }
708 }
709 @end lilypond
710
711 @noindent
712 確かにスラーが太くなっています。
713
714 これが @code{\override} コマンドを構築する基本的な方法です。@c
715 これより後のセクションで遭遇するものはもう少し複雑ですが、@c
716 必要な要点はすべて知っています
717 -- しかしながら、まだ練習が必要でしょう。@c
718 これは以下の例で提供されます。
719
720 @subsubsubheading コンテキストを見つけ出す
721
722 @cindex context, finding (コンテキストを見つけ出す)
723 @cindex context, identifying correct (正しいコンテキストを特定する)
724
725 しかしながら、まず最初にコンテキストを指定しなければならないとしたら@c
726 どうでしょうか?@c
727 指定すべきコンテキストは何でしょうか?@c
728 スラーとボイスは音楽表記の各行で明らかに関係が深いので、@c
729 スラーは @code{Voice} コンテキストの中にあると推測できるかもしれません。@c
730 しかし、それは確かでしょうか?@c
731 この問題を解決するには、Slur について記述している内部リファレンス ページの@c
732 先頭に戻ります。@c
733 そこには @q{Slur オブジェクトは Slur エングラーバによって作成される} と@c
734 書かれています。@c
735 そのため、スラーは @code{Slur_engraver} が存在しているコンテキストの@c
736 どれかで作成されるということになります。@c
737 @code{Slur_engraver} へのリンクを辿ります。@c
738 そのページの最後の方で @code{Slur_engraver} は 7 つのボイス コンテキスト
739 -- 標準のボイス コンテキストである @code{Voice} を含む
740 -- の一部であることが述べられています。@c
741 ですから、推測は正しかったのです。@c
742 そして、@code{Voice} は最下位のコンテキストの 1 つである
743 -- このことは、そこに音符を入力するという事実によって明らかに示されています
744 -- ため、ここではそのコンテキストを省略することができるのです。
745
746 @subsubsubheading 1 回だけオーバライドする
747
748 @cindex overriding once only (一度だけオーバライドする)
749 @cindex once override (一度だけオーバライドする)
750
751 @funindex \once
752
753 上記の最後の例では @emph{すべて} のスラーが太くなっています。@c
754 しかし、最初のスラーだけを太くしたい場合はどうでしょうか?@c
755 これは @code{\once} コマンドを使うことによって達成されます。@c
756 @code{\override} コマンドの直前に @code{\once} コマンドを@c
757 置くことによって、@code{\override} コマンドは @strong{直後にある} 音符から@c
758 始まるスラーだけを変更するようになります。@c
759 直後にある音符がスラーの開始点ではない場合、そのコマンドはまったく機能しません
760 -- それがスラーに遭遇するまで保持されるということはなく、@c
761 ただ切り捨てられるだけです。@c
762 そのため、@code{\once} コマンド付きの @code{\override} コマンドは@c
763 以下のように上記の例とは異なる場所に置かなくてはなりません:
764
765 @cindex Slur, example of overriding (Slur をオーバライドする例)
766 @cindex thickness property, example (thickness プロパティの例)
767
768 @c KEEP LY
769 @lilypond[quote,verbatim]
770 {
771   \key es \major
772   \time 6/8
773   \relative {
774     r4 bes'8
775     % 直後にあるスラーのみを太くします
776     \once \override Slur.thickness = #5.0
777     bes8[( g]) g |
778     g8[( es]) es d[( f]) as |
779     as8 g
780   }
781   \addlyrics {
782     The man who | feels love's sweet e -- | mo -- tion
783   }
784 }
785 @end lilypond
786
787 @noindent
788 今度は、最初のスラーだけが太くなりました。
789
790 @code{\once} コマンドは @code{\set} コマンドの前でも使用される可能性があります。
791
792 @subsubsubheading 元に戻す
793
794 @cindex revert (元に戻す)
795 @cindex default properties, reverting to (デフォルトのプロパティに戻す)
796
797 @funindex \revert
798
799 最後に、最初の 2 つだけのスラーを太くしたい場合はどうでしょうか?@c
800 その場合、2 つのコマンド -- それぞれの前に @code{\once} を付けた --
801 をスラーが始まる音符の直前に置きます:
802
803 @cindex Slur, example of overriding (Slur をオーバライドする例)
804 @cindex thickness property, example (thickness プロパティの例)
805
806 @c KEEP LY
807 @lilypond[quote,verbatim]
808 {
809   \key es \major
810   \time 6/8
811   \relative {
812     r4 bes'8
813     % 直後にあるスラーのみを太くします
814     \once \override Slur.thickness = #5.0
815     bes[( g]) g |
816     % 直後にあるスラーのみを太くします
817     \once \override Slur.thickness = #5.0
818     g8[( es]) es d[( f]) as |
819     as8 g
820   }
821   \addlyrics {
822     The man who | feels love's sweet e -- | mo -- tion
823   }
824 }
825 @end lilypond
826
827 @noindent
828 あるいは、@code{\once} コマンドを省略して、2 番目のスラーの後に
829 @code{thickness} プロパティをデフォルト値に戻すために
830 @code{\revert} コマンドを使うこともできます:
831
832 @cindex Slur, example of overriding (Slur をオーバライドする例)
833 @cindex thickness property, example (thickness プロパティの例)
834
835 @c KEEP LY
836 @lilypond[quote,verbatim]
837 {
838   \key es \major
839   \time 6/8
840   \relative {
841     r4 bes'8
842     % 以後のスラーの太さを 1.2 から 5.0 に増やします
843     \override Slur.thickness = #5.0
844     bes[( g]) g |
845     g8[( es]) es
846     % 以後のスラーの太さをデフォルトの 1.2 に戻します
847     \revert Slur.thickness
848     d8[( f]) as |
849     as8 g
850   }
851   \addlyrics {
852     The man who | feels love's sweet e -- | mo -- tion
853   }
854 }
855 @end lilypond
856
857 @noindent
858 @code{\revert} コマンドは @code{\override} コマンドで@c
859 変更されたどのプロパティでもデフォルト値に戻すことができます。@c
860 状況に相応しい方を使用してください。
861
862 これで内部リファレンスと調整の基本的な方法についての紹介を終わりにします。@c
863 この章で後に続くセクションの中にあるいくつのかの例でも一部では、@c
864 内部リファレンスの特徴についての追加の紹介や、そこから情報を取り出すための@c
865 更なる練習を提供します。@c
866 それらの例ではガイダンスや説明のための言葉はずっと少ないでしょう。
867
868
869 @node インタフェイスの中で見つかるプロパティ
870 @subsection インタフェイスの中で見つかるプロパティ
871 @translationof Properties found in interfaces
872
873 @cindex interface (インタフェイス)
874 @cindex interface properties (インタフェイス プロパティ)
875 @cindex properties in interfaces (インタフェイス内のプロパティ)
876
877 今度は歌詞をイタリック体で譜刻したいということにします。@c
878 そうするには @code{\override} コマンドをどのように使う必要があるのでしょうか?@c
879 以前と同様に、まず @q{すべてのレイアウト オブジェクト} をリストアップしている@c
880 内部リファレンス ページを開き、歌詞をコントロールしていそうなオブジェクトを@c
881 探します。@c
882 @code{LyricText} がそれであるようです。@c
883 これをクリックすると、歌詞のテキストに対してセットすることができる@c
884 プロパティが表示されます。@c
885 そこには @code{font-series} と @code{font-size} が含まれますが、@c
886 歌詞をイタリック体にするためのプロパティらしきものはありません。@c
887 これは、形に関するプロパティはすべてのフォント オブジェクトに共通なもの@c
888 であり、そのため、各レイアウト オブジェクトに含まれているのではなく、@c
889 他の同様な共通プロパティと一緒にグループ化されていて、@c
890 @strong{インタフェイス} の 1 つ @code{font-interface} の中に@c
891 置かれているからです。
892
893 そのため、インタフェイスのプロパティを見つける方法と、どのオブジェクトが@c
894 これらのインタフェイス プロパティを使うのかを調べる方法を学ぶ必要があります。
895
896 @code{LyricText} について記述している内部リファレンスのページを@c
897 再び開いてください。@c
898 そのページの最後に @code{LyricText} がサポートするインタフェイスへのリンクが@c
899 リスト アップされています。@c
900 そのリストには @code{font-interface} を含むいくつかの要素があります。@c
901 このリンクをクリックすると、このインタフェイスに@c
902 関連付けされているプロパティのところに行きます。@c
903 これらのプロパティは @code{LyricText} を含む @code{font-interface} を@c
904 サポートするすべてのオブジェクトのプロパティでもあります。
905
906 @code{font-shape(symbol)} を含むフォントを制御するユーザが@c
907 設定可能なプロパティをすべて見つけました。@c
908 @code{font-shape(symbol)} では @code{symbol} を @code{upright},
909 @code{italics}, あるいは @code{caps} にセットすることができます。
910
911 そこには、@code{font-series} と @code{font-size} もリスト アップされている@c
912 ことに気づくでしょう。@c
913 そこで次のような疑問が湧いてきます:
914 共通フォントプロパティ @code{font-series} と @code{font-size} は
915 @code{LyricText} とインタフェイス @code{font-interface} の両方で@c
916 リスト アップされているのに、なぜ @code{font-shape} はそうでないのか?@c
917 その答えは、@code{font-series} と @code{font-size} は、@c
918 @code{LyricText} オブジェクトが作成されるときに、@c
919 それらのグローバルなデフォルト値から変更されるのに対して、@c
920 @code{font-shape} はそうではないからです。@c
921 @code{LyricText} の中にあるエントリから @code{LyricText} に適用される@c
922 それら 2 つのプロパティの値がわかります。@c
923 @code{font-interface} をサポートする他のオブジェクトは、@c
924 それらのオブジェクトが作成されるときに、@c
925 それらのプロパティを異なる値にセットします。
926
927 今度は歌詞をイタリック体に変更するように @code{\override} コマンドを@c
928 構築できるかどうかを見ていきましょう。@c
929 オブジェクトは @code{LyricText} であり、@c
930 プロパティは @code{font-shape} であり、セットする値は @code{italic} です。@c
931 前と同様に、コンテキストを省略します。
932
933 話は逸れますが重要なことを 1 つ挙げます。@c
934 プロパティには値としてシンボル (例えば @code{italic}) を取るものがあります。@c
935 シンボルの前にはアポストロフィ @code{'} を置く必要があり、そうすることで内部的に
936 LilyPond に読み込まれます。@c
937 任意のテキスト文字列との違い -- 任意のテキスト文字列は @code{"a text string"}
938 のような形で表記されます -- に注意してください。@c
939 シンボルと文字列についてのより詳細な説明は@rextend{Scheme tutorial}
940 を参照してください。
941
942 さて、それでは歌詞をイタリック体で譜刻するために必要となる
943 @code{\override} コマンドは以下のようになります:
944
945 @example
946 \override LyricText.font-shape = #'italic
947 @end example
948
949 @noindent
950 そして、これは以下のように影響を与える歌詞の前に、そして近くに置くべきです:
951
952 @cindex font-shape property, example (font-shape プロパティの例)
953 @cindex italic, example (italic の例)
954 @cindex LyricText, example of overriding (Lyric をオーバライドする例)
955 @cindex @code{\addlyrics}, example (@code{\addlyrics} の例)
956
957 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
958 {
959   \key es \major
960   \time 6/8
961   \relative {
962     r4 bes'8 bes[( g]) g |
963     g8[( es]) es d[( f]) as |
964     as8 g
965   }
966   \addlyrics {
967     \override LyricText.font-shape = #'italic
968     The man who | feels love's sweet e -- | mo -- tion
969   }
970 }
971 @end lilypond
972
973 @noindent
974 これで歌詞がすべてイタリック体で譜刻されました。
975
976 @warning{歌詞の中では、最後の音節と終端の波括弧の間に常にスペースを@c
977 置いてください。}
978
979
980 @seealso
981 拡張: @rextend{Scheme tutorial}
982
983
984 @node プロパティのタイプ
985 @subsection プロパティのタイプ
986 @translationof Types of properties
987
988 @cindex property types (プロパティ タイプ)
989
990 これまでにプロパティのタイプを 2 つ見てきました:
991 @code{number} と @code{symbol} です。@c
992 プロパティに与える値が有効であるためには、その値は正しいタイプであり、@c
993 そのタイプのルールに従っていなければなりません。@c
994 プロパティのタイプは内部リファレンスの中で常にプロパティ名の後の括弧の中に@c
995 表示されています。@c
996 ここに、あなたが必要になるであろうプロパティのタイプを、@c
997 そのタイプのルールといくつかの例と共にリスト アップします。@c
998 @code{\override} コマンドの中でプロパティの値を入力する時は、@c
999 当然、常にそれらの値の前にハッシュ記号 @code{#} を付け加える必要があります
1000 -- 例え、その値自体が @code{#} で始まっていたとしても付け加える必要があり@c
1001 ます。@c
1002 ここでは定数の例だけを示します: Scheme を用いて値の計算をしたいのであれば、@c
1003 @rextend{Calculations in Scheme} を参照してください。
1004
1005 @multitable @columnfractions .2 .45 .35
1006 @headitem プロパティ タイプ
1007   @tab 規則
1008   @tab 例
1009 @item Boolean
1010   @tab 真か偽のどちらかで、それぞれ #t と #f で表されます
1011   @tab @code{#t}, @code{#f}
1012 @item Dimension (譜スペース)
1013   @tab 小数 (譜スペース単位)
1014   @tab @code{2.5}, @code{0.34}
1015 @item Direction
1016   @tab 向きを表す有効な定数またはそれと等価な数値 (-1 から 1 までの小数が@c
1017 許可されます)
1018   @tab @code{LEFT}, @code{CENTER}, @code{UP},
1019        @code{1}, @w{@code{-1}}
1020 @item Integer
1021   @tab 整数
1022   @tab @code{3}, @code{-1}
1023 @item List
1024   @tab 一連の定数またはシンボル。@c
1025   スペースで区切られ、前にアポストロフィが付いた括弧で囲まれます
1026   @tab @code{'(left-edge staff-bar)}, @code{'(1)}, @code{'()},
1027        @code{'(1.0 0.25 0.5)}
1028 @item Markup
1029   @tab 有効なマークアップ
1030   @tab @code{\markup @{ \italic "cresc." @}}
1031 @item Moment
1032   @tab make-moment 関数で構築される全音符の分数
1033   @tab @code{(ly:make-moment 1/4)},
1034        @code{(ly:make-moment 3/8)}
1035 @item Number
1036   @tab 正または負の小数
1037   @tab @code{3.5}, @w{@code{-2.45}}
1038 @item (数の) Pair
1039   @tab @q{スペース . スペース} で区切られ、前にアポストロフィが付いた括弧で@c
1040 囲まれた 2 つの数値
1041   @tab @code{'(2 . 3.5)}, @code{'(0.1 . -3.2)}
1042 @item Symbol
1043   @tab プロパティに許可されているシンボルのセットのいずれかであり、@c
1044 前にアポロストロフィを付けます
1045   @tab @code{'italic}, @code{'inside}
1046 @item Unknown
1047   @tab 手続き。何のアクションも起こさない場合は @code{#f}
1048   @tab @code{bend::print}, @code{ly:text-interface::print},
1049        @code{#f}
1050 @item Vector
1051   @tab @code{#(}@dots{}@code{)} で囲まれたいくつかの定数
1052   @tab @code{#(#t #t #f)}
1053 @end multitable
1054
1055
1056 @seealso
1057 拡張: @rextend{Scheme tutorial}
1058
1059
1060 @node オブジェクトの見た目
1061 @section オブジェクトの見た目
1062 @translationof Appearance of objects
1063
1064 いくつかの例を使ってこれまでに学んだことを練習して、譜刻される楽譜の見た目を@c
1065 変更するためにどのように調整が使われるのかを見ていきましょう。
1066
1067 @menu
1068 * オブジェクトの可視性と色::
1069 * オブジェクトのサイズ::
1070 * オブジェクトの長さと太さ::
1071 @end menu
1072
1073
1074 @node オブジェクトの可視性と色
1075 @subsection オブジェクトの可視性と色
1076 @translationof Visibility and color of objects
1077
1078 教育目的の楽譜では、ある要素を省略した楽譜を譜刻して、@c
1079 学生にそれを付け足させるという訓練にしたいと思うかもしれません。@c
1080 簡単な例として、その訓練とは小節線の無い楽譜だと仮定してみましょう。@c
1081 しかしながら、通常、小節線は自動的に挿入されます。@c
1082 どうやって小節線が譜刻されることを防ぐのでしょうか?
1083
1084 このことに挑戦する前に、オブジェクト プロパティは @emph{インタフェイス} と@c
1085 呼ばれるものにグループ化されているということを思い出してください
1086 -- @ref{インタフェイスの中で見つかるプロパティ} を参照してください。@c
1087 これはあるグラフィカル オブジェクトを調整するために一緒に@c
1088 使用されるかもしれないプロパティをグループ化したものです
1089 -- あるオブジェクトに対してインタフェイス内のプロパティの 1 つを使うことが@c
1090 許可されるのなら、他のプロパティも許可されます。@c
1091 あるオブジェクトはいくつかのインタフェイス内にあるプロパティを使用し、@c
1092 別のオブジェクトはそれとは別のインタフェイス内にあるプロパティを使用します。@c
1093 ある特定のグラフィカルオブジェクトによって使用されるプロパティを保持している@c
1094 インタフェイスは、そのグラフィカル オブジェクトについて記述している@c
1095 内部リファレンス ページの最後にリスト アップされていて、@c
1096 それらのプロパティはそれらのインタフェイスを参照することによって閲覧できます。
1097
1098 グラフィカル オブジェクトについての情報を見つけ出す方法を
1099 @ref{レイアウト オブジェクトのプロパティ} で説明しました。@c
1100 同じアプローチを使って、内部リファレンスで小節線を@c
1101 譜刻するレイアウト オブジェクトを見つけ出します。@c
1102 @emph{Backend} を経由して @emph{All layout objects} に行くと、@c
1103 そこに @code{BarLine} と呼ばれる@c
1104 レイアウト オブジェクトがあることがわかります。@c
1105 そのレイアウト オブジェクトのプロパティには小節線の可視性をコントロールする
1106 2 つのプロパティが含まれています: @c
1107 @code{break-visibility} と @code{stencil} です。@c
1108 さらに、@code{BarLine} はインタフェイスのいくつかをサポートしています。@c
1109 @code{grob-interface} もサポートされていて、@c
1110 そこには @code{transparent} プロパティと @code{color} プロパティが@c
1111 含まれています。@c
1112 これらすべてが小節線の可視性に影響を与えます (そしてもちろん、@c
1113 拡大解釈すれば他の多くのレイアウト オブジェクトにも影響を与えます)。@c
1114 次はこれらのプロパティをそれぞれ見ていきましょう。
1115
1116 @menu
1117 * stencil プロパティ::
1118 * break-visibility プロパティ::
1119 * transparent プロパティ::
1120 * color プロパティ::
1121 @end menu
1122
1123
1124 @node stencil プロパティ
1125 @unnumberedsubsubsec @code{stencil} プロパティ
1126 @translationof The stencil property
1127
1128 @cindex stencil property (stencil プロパティ)
1129
1130 このプロパティは譜刻すべきシンボル (図柄) を指定することによって@c
1131 小節線の見た目を制御します。@c
1132 他の多くのプロパティでも共通に言えますが、このプロパティの値に
1133 @code{#f} をセットすることによって何も譜刻させなくすることができます。@c
1134 ではやってみましょう。@c
1135 以前と同様に、暗黙のコンテキスト @code{Voice} は省略します:
1136
1137 @cindex BarLine, example of overriding (BarLine をオーバライドする例)
1138 @cindex stencil property, example (stencil プロパティの例)
1139
1140 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1141 \relative {
1142   \time 12/16
1143   \override BarLine.stencil = ##f
1144   c''4 b8 c d16 c d8 |
1145   g,8 a16 b8 c d4 e16 |
1146   e8
1147 }
1148 @end lilypond
1149
1150 小節線はまだ譜刻されています。@c
1151 何が間違っているのでしょうか?@c
1152 内部リファレンスに戻って、@code{BarLine} のプロパティを記述しているページを@c
1153 読み返してください。@c
1154 そのページの先頭に
1155 @qq{BarLine オブジェクトは Bar_engraver によって作成されます} と@c
1156 記述されています。@c
1157 @code{Bar_engraver} ページに行ってください。@c
1158 そのページの最後で、@code{Bar_engraver} を保持するコンテキストが@c
1159 リスト アップされています。@c
1160 それらのコンテキストのタイプはすべて @code{Staff} です。@c
1161 ですから、@code{\override} コマンドが予期したように機能しなかったのは、@c
1162 @code{BarLine} はデフォルトの @code{Voice} コンテキストの中には@c
1163 いなかったからなのです。@c
1164 コンテキストが間違って指定された場合、そのコマンドは機能しません。@c
1165 エラー メッセージは生成されず、ログ ファイルには何もログが残りません。@c
1166 正しいコンテキストを付け加えることによってコマンドを修正してみましょう:
1167
1168 @cindex BarLine, example of overriding (BarLine をオーバライドする例)
1169 @cindex stencil property, example (stencil プロパティの例)
1170
1171 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1172 \relative {
1173   \time 12/16
1174   \override Staff.BarLine.stencil = ##f
1175   c''4 b8 c d16 c d8 |
1176   g,8 a16 b8 c d4 e16 |
1177   e8
1178 }
1179 @end lilypond
1180
1181 今度は小節線が消えました。@c
1182 @code{stencil} プロパティに @code{#f} をセットする操作は頻繁に行うので、@c
1183 短くしたコマンド @code{\omit} が用意されています:
1184 @funindex \omit
1185
1186 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1187 \relative {
1188   \time 12/16
1189   \omit Staff.BarLine
1190   c''4 b8 c d16 c d8 |
1191   g,8 a16 b8 c d4 e16 |
1192   e8
1193 }
1194 @end lilypond
1195
1196 しかしながら、@code{stencil} プロパティを @code{#f} にセットするのではなく、@c
1197 オブジェクトの大きさを修正する必要があるオブジェクトも存在するということに@c
1198 注意してください。@c
1199 そのようなオブジェクトの @code{stencil} プロパティを @code{#f} にセットすると@c
1200 エラーになります。
1201 例えば、@code{NoteHead} オブジェクトの @code{stencil} プロパティを
1202 @code{#f} にセットするとエラーになります。@c
1203 この場合、@code{point-stencil} を使ってサイズが 0 のステンシル (型、型紙) を@c
1204 オブジェクトにセットします:
1205
1206 @lilypond[quote,verbatim]
1207 \relative {
1208   c''4 c
1209   \once \override NoteHead.stencil = #point-stencil
1210   c4 c
1211 }
1212 @end lilypond
1213
1214
1215 @node break-visibility プロパティ
1216 @unnumberedsubsubsec @code{break-visibility} property
1217 @translationof The break-visibility property
1218
1219 @cindex break-visibility property (break-visibility プロパティ)
1220
1221 内部リファレンスの @code{BarLine} のプロパティから
1222 @code{break-visibility} プロパティには 3 つのブール値からなるベクトルが@c
1223 必要であることがわかります。@c
1224 これらはそれぞれ、小節線が行の最後、行の途中、行の最初に譜刻されるかどうかを@c
1225 制御します。@c
1226 以下の例ではすべての小節線を消したいので、必要となる値は
1227 @code{#(#f #f #f)} です
1228 (同じ結果を @code{all-invisible} でも得ることができます)。@c
1229 それではやってみましょう。@c
1230 @code{Staff} コンテキストを含めることを忘れないでください。@c
1231 また、この値を書くときに括弧を始める前に @code{##} を@c
1232 付ける必要があることにも注意してください。@c
1233 @code{#} の 1 つはベクトルを導入するときに値の一部として必要とされ、@c
1234 先頭の @code{#} は @code{\override} コマンドの中で常に値の前に@c
1235 置くことが必要とされます。
1236
1237 @cindex BarLine, example of overriding (BarLine をオーバライドする例)
1238 @cindex break-visibility property, example (break-visibility プロパティの例)
1239
1240 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1241 \relative {
1242   \time 12/16
1243   \override Staff.BarLine.break-visibility = ##(#f #f #f)
1244   c''4 b8 c d16 c d8 |
1245   g,8 a16 b8 c d4 e16 |
1246   e8
1247 }
1248 @end lilypond
1249
1250 今度もすべての小節線が消えました。
1251
1252
1253 @node transparent プロパティ
1254 @unnumberedsubsubsec @code{transparent} プロパティ
1255 @translationof The transparent property
1256
1257 @cindex transparent property (transparent プロパティ)
1258 @cindex transparency (透明性)
1259
1260 内部リファレンスの @code{grob-interface} ページにあるプロパティから
1261 @code{transparent} プロパティはブール値であることがわかります。@c
1262 これはグラフィカル オブジェクトを透明にする場合には @code{#t} に@c
1263 セットします。@c
1264 次の例では、小節線ではなく拍子記号を不可視にしてみましょう。@c
1265 そうするには、まず、拍子記号のグラフィカル オブジェクト名を@c
1266 見つける必要があります。@c
1267 @code{TimeSignature} レイアウト オブジェクトのプロパティを見つけるために@c
1268 内部リファレンスの @q{すべてのレイアウト オブジェクト} ページに@c
1269 戻ってください。@c
1270 @code{TimeSigunature} は @code{Time_signature_engraver} によって作り出され、@c
1271 さらに、@code{Time_signature_engraver} は @code{Staff} コンテキストに含まれ、@c
1272 さらに、@code{Staff} コンテキストは @code{grob-interface} を@c
1273 サポートしているということがわかります。@c
1274 そのため、拍子記号を透明にするためのコマンドは以下のようになります:
1275
1276 @cindex TimeSignature, example of overriding (TimeSignature をオーバライドする例)
1277 @cindex transparent property, example (transparent プロパティの例)
1278
1279 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1280 \relative {
1281   \time 12/16
1282   \override Staff.TimeSignature.transparent = ##t
1283   c''4 b8 c d16 c d8 |
1284   g,8 a16 b8 c d4 e16 |
1285   e8
1286 }
1287 @end lilypond
1288
1289 @noindent
1290 @code{transparent} プロパティに @code{#t} をセットする操作も頻繁に行うので、@c
1291 短くしたコマンド @code{\hide} が用意されています:
1292 @funindex \hide
1293
1294 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1295 \relative {
1296   \time 12/16
1297   \hide Staff.TimeSignature
1298   c''4 b8 c d16 c d8 |
1299   g,8 a16 b8 c d4 e16 |
1300   e8
1301 }
1302 @end lilypond
1303
1304 @noindent
1305 どちらの場合でも拍子記号は消えました。@c
1306 しかしながら、このコマンドは拍子記号があるべき場所に隙間を残しています。@c
1307 たぶん、これは学生がその部分を埋めるための練習としては望ましいでしょうが、@c
1308 他の状況ではこの隙間は望ましくありません。@c
1309 この隙間を取り除くには、拍子記号の @code{transparent} の代わりに@c
1310 ステンシル (型、型紙) を @code{#f} にセットします:
1311
1312 @cindex TimeSignature, example of overriding (TimeSignature をオーバライドする例)
1313 @cindex stencil property, example (stencil プロパティの例)
1314
1315 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1316 \relative {
1317   \time 12/16
1318   \omit Staff.TimeSignature
1319   c''4 b8 c d16 c d8 |
1320   g,8 a16 b8 c d4 e16 |
1321   e8
1322 }
1323 @end lilypond
1324
1325 @noindent
1326 違いは明白です: ステンシルを @code{#f} にセットする
1327 (@code{\omit} を用いることもできます) と、オブジェクト自体が削除されます。@c
1328 一方、オブジェクトを @code{transparent} (透明) にする
1329 (@code{\hide} を用いることもできます)とそのオブジェクトは消えますが、@c
1330 オブジェクトは不可視になっただけです。
1331
1332 @subheading 色 (color)
1333
1334 @node color プロパティ
1335 @unnumberedsubsubsec @code{color} プロパティ
1336 @translationof The color property
1337
1338 最後に、小節線の色を白にすることによって小節線を不可視にしてみましょう。@c
1339 (これには白い小節線が譜線と交差したところで@c
1340 譜線を見えたり見えなくしてしまうかもしれないという問題があります。@c
1341 以下のいくつかの例で、このことを予測することはできないと思うかもしれません。@c
1342 そうなる理由と、それを制御する方法についての詳細は、@c
1343 @ruser{Painting objects white} でカバーされています。@c
1344 しかしここでは色について学んでいるところなので、@c
1345 オブジェクトを白で描くことの限界を受け入れるだけにしてください。)
1346
1347 @code{grob-interface} はカラー プロパティの値はリストであると指定しています。@c
1348 しかしながら、そのリストが何であるべきなのかの説明はありません。@c
1349 カラー プロパティで必要とされるリストは実際のところ内部ユニットの中にある@c
1350 値のリストです。@c
1351 しかし、内部ユニットの中にある値を知らなくても済むように、@c
1352 カラーを指定するための手段がいくつか用意されています。@c
1353 最初の方法は @ruser{List of colors} にある最初の表でリスト アップされている
1354 @q{標準} のカラーの 1 つを使用する方法です。@c
1355 小節線を白にするには以下のように記述します:
1356
1357 @cindex BarLine, example of overriding (BarLine をオーバライドする例)
1358 @cindex color property, example (color プロパティの例)
1359
1360 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1361 \relative {
1362   \time 12/16
1363   \override Staff.BarLine.color = #white
1364   c''4 b8 c d16 c d8 |
1365   g,8 a16 b8 c d4 e16 |
1366   e8
1367 }
1368 @end lilypond
1369
1370 @noindent
1371 今度も再び小節線は見えなくなりました。@c
1372 @emph{white} の前にアポストロフィは付かないということに注意してください
1373 -- これはシンボルではなく@emph{変数}です。@c
1374 この変数は評価される時、小節線の色を白にセットするのに必要な内部的な値の@c
1375 リストを提供します。@c
1376 標準カラー リストにある他のカラーもまた変数です。@c
1377 小節線の色をこのリストの中にある他の変数に変更することで、@c
1378 これが機能することをあなた自身で納得できます。
1379
1380 @cindex color, X11 (X11 カラー)
1381 @cindex X11 colors (X11 カラー)
1382
1383 @funindex x11-color
1384
1385 カラーを変えるための 2 つ目の方法は、@ruser{List of colors} の
1386 2 番目のリストの中にある X11 カラー名のリストを使用する方法です。@c
1387 しかしながら、X11 カラー名は関数 @code{x11-color} によって実際の値に@c
1388 マッピングされます。@c
1389 @code{x11-color} は以下のように X11 カラー シンボルを内部値のリストに@c
1390 変換します:
1391
1392 @cindex BarLine, example of overriding (BarLine をオーバライドする例)
1393 @cindex color property, example (color プロパティの例)
1394
1395 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1396 \relative {
1397   \time 12/16
1398   \override Staff.BarLine.color = #(x11-color 'white)
1399   c''4 b8 c d16 c d8 |
1400   g,8 a16 b8 c d4 e16 |
1401   e8
1402 }
1403 @end lilypond
1404
1405 @noindent
1406 この場合、関数 @code{x11-color} はシンボルを引数として扱うので、@c
1407 変数として評価されないようシンボルの前にアポストロフィを付ける必要があり、@c
1408 関数呼び出し全体を括弧で囲む必要があるということに注意してください。
1409
1410 @cindex rgb colors (RGB カラー)
1411 @cindex color, rgb (RGB カラー)
1412
1413 @funindex rgb-color
1414
1415 もう 1 つ関数があります。@c
1416 RGB 値を内部カラーに変換する @code{rgb-color} 関数です。@c
1417 この関数は赤、緑、青の輝度を表す 3 つの引数をとります。@c
1418 これらの引数は 0 から 1 までの値をとります。@c
1419 ですから、カラーを赤にセットする場合の値は @code{(rgb-color 1 0 0)} となり、@c
1420 白の場合は @code{(rgb-color 1 1 1)} となります:
1421
1422 @cindex BarLine, example of overriding (BarLine をオーバライドする例)
1423 @cindex color property, example (color プロパティの例)
1424
1425 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1426 \relative {
1427   \time 12/16
1428   \override Staff.BarLine.color = #(rgb-color 1 1 1)
1429   c''4 b8 c d16 c d8 |
1430   g,8 a16 b8 c d4 e16 |
1431   e8
1432 }
1433 @end lilypond
1434
1435 最後に、X11 カラー セットの一部であるグレー スケールを用いる方法もあります。@c
1436 グレー スケールの範囲は黒 @code{'grey0} から白 @code{'grey100} まで
1437 1 段階ずつあります。@c
1438 グレー スケールの使用方法を示すために、@c
1439 例の中にあるすべてのレイアウト オブジェクトのカラーをさまざまな濃度の@c
1440 グレーにセットしてみましょう:
1441
1442 @cindex StaffSymbol, example of overriding (StaffSymbol をオーバライドする例)
1443 @cindex TimeSignature, example of overriding (TimeSignature をオーバライドする例)
1444 @cindex Clef, example of overriding (Clef をオーバライドする例)
1445 @cindex NoteHead, example of overriding (NoteHead をオーバライドする例)
1446 @cindex Stem, example of overriding (Stem をオーバライドする例)
1447 @cindex BarLine, example of overriding (BarLine をオーバライドする例)
1448 @cindex color property, example (color プロパティの例)
1449 @cindex x11-color, example of using (x11-color の使用例)
1450
1451 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1452 \relative {
1453   \time 12/16
1454   \override Staff.StaffSymbol.color = #(x11-color 'grey30)
1455   \override Staff.TimeSignature.color = #(x11-color 'grey60)
1456   \override Staff.Clef.color = #(x11-color 'grey60)
1457   \override Voice.NoteHead.color = #(x11-color 'grey85)
1458   \override Voice.Stem.color = #(x11-color 'grey85)
1459   \override Staff.BarLine.color = #(x11-color 'grey10)
1460   c''4 b8 c d16 c d8 |
1461   g,8 a16 b8 c d4 e16 |
1462   e8
1463 }
1464 @end lilypond
1465
1466 @noindent
1467 各レイアウト オブジェクトに関連付けされているコンテキストに注意してください。@c
1468 これらのコンテキストを正しく取得することが重要であり、@c
1469 そうしなければコマンドは機能しません!@c
1470 コンテキストの中には特定のエングラーバが置かれているということを@c
1471 忘れないでください。@c
1472 エングラーバに対するデフォルト コンテキストを見つけ出すには、@c
1473 内部リファレンスのレイアウト オブジェクトからスタートして、@c
1474 そこからそれを作り出すエングラーバのページに行きます。@c
1475 エングラーバのページには、@c
1476 通常はどのコンテキストにそのエングラーバが含まれているのかが記述されています。
1477
1478
1479 @node オブジェクトのサイズ
1480 @subsection オブジェクトのサイズ
1481 @translationof Size of objects
1482
1483 @cindex changing size of objects (オブジェクトのサイズを変更する)
1484 @cindex size of objects (オブジェクトのサイズ)
1485 @cindex objects, size of (オブジェクトのサイズ)
1486 @cindex objects, changing size of (オブジェクトのサイズを変更する)
1487
1488 以前の例を見直すことから始めてみましょう
1489 (@ref{Nesting music expressions} を参照してください)。@c
1490 そこでは @rglos{ossia} として新たに一時的な譜を導入する方法が示されています。
1491
1492 @cindex alignAboveContext property, example (alignAboveContext プロパティの例)
1493 @cindex @code{\with}, example (@code{\with} の例)
1494
1495 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1496 \new Staff ="main" {
1497   \relative {
1498     r4 g'8 g c4 c8 d |
1499     e4 r8
1500     <<
1501       { f8 c c }
1502       \new Staff \with {
1503         alignAboveContext = #"main" }
1504       { f8 f c }
1505     >>
1506     r4 |
1507   }
1508 }
1509 @end lilypond
1510
1511 通常、オッシアは音部記号と拍子記号無しで記述され、@c
1512 メインの譜よりもわずかに小さく譜刻されます。@c
1513 今度は、すでに音部記号と拍子記号を削除する方法を知っています
1514 -- 以下のようにそれぞれのステンシルを @code{#f} にセットするだけです:
1515
1516 @cindex alignAboveContext property, example (alignAboveContext プロパティの例)
1517 @cindex @code{\with}, example (@code{\with} の例)
1518 @funindex \omit
1519 @cindex Clef, example of overriding (Clef をオーバライドする例)
1520 @cindex TimeSignature, example of overriding (TimeSignature をオーバライドする例)
1521
1522 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1523 \new Staff ="main" {
1524   \relative {
1525     r4 g'8 g c4 c8 d |
1526     e4 r8
1527     <<
1528       { f8 c c }
1529       \new Staff \with {
1530         alignAboveContext = #"main"
1531       }
1532       {
1533         \omit Staff.Clef
1534         \omit Staff.TimeSignature
1535         { f8 f c }
1536       }
1537     >>
1538     r4 |
1539   }
1540 }
1541 @end lilypond
1542
1543 @noindent
1544 ここで、@code{\with} 節の後にある追加の括弧のペアが、@c
1545 その括弧に囲まれているオーバライドと音楽がオッシア譜に適用されることを@c
1546 保証するために、必要となります。
1547
1548 しかし、@code{\with} を用いた譜コンテキストの変更と @code{\override}
1549 を用いた音部記号と拍子記号のステンシルの変更 (あるいはこのケースでは
1550 @code{\omit} を用いています) との違いは何なのでしょうか?@c
1551 主な違いは、@code{\with} 節の中で行われた変更はそのコンテキストが@c
1552 作成されるときに行われ、@c
1553 そのコンテキストでは @strong{デフォルト} 値として残ります。@c
1554 一方、音楽の中に埋め込まれた @code{\set} コマンドや
1555 @code{\override} コマンドは動的です
1556 -- それらは音楽のある特定のポイントに同期して変更を行います。@c
1557 変更が @code{\unset} や @code{\revert} を使ってセットを解除されたり@c
1558 元に戻された場合、デフォルト値
1559 -- これは @code{\with} 節でセットされていた場合はその値、@c
1560 そうでない場合は通常のデフォルト値 -- に戻ります。
1561
1562 いくつかのコンテキスト プロパティは @code{\with} 節でのみ変更可能です。@c
1563 これらは、コンテキストが作成された後では、変更されることのないプロパティです。@c
1564 @code{alignAboveContext} とそのパートナー @code{alignBelowContext} が@c
1565 そのようなプロパティです -- いったん譜が作成されると、@c
1566 譜のアラインメントは決定され、@c
1567 それを後で変更しようとすることには意味がありません。
1568
1569 レイアウト オブジェクトのデフォルト値は @code{\with} 節で@c
1570 セットすることもできます。@c
1571 通常の @code{\override} コマンドをコンテキスト名を省いて@c
1572 使用するだけです。@c
1573 コンテキスト名を省略するのは、そのコンテキストは明らかに
1574 @code{\with} 節が変更しようとしているコンテキストだからです。@c
1575 実際、@code{\with} 節の中でコンテキストを指定するとエラーが発生します。
1576
1577 それでは上記の例を以下のように書き換えます:
1578
1579 @cindex alignAboveContext property, example (alignAboveContext プロパティの例)
1580 @cindex @code{\with}, example (@code{\with} の例)
1581 @cindex Clef, example of overriding (Clef をオーバライドする例)
1582 @cindex TimeSignature, example of overriding (TimeSignature をオーバライドする例)
1583
1584 @c KEEP LY
1585 @lilypond[quote,fragment,ragged-right,verbatim]
1586 \new Staff ="main" {
1587   \relative {
1588     r4 g'8 g c4 c8 d |
1589     e4 r8
1590     <<
1591       { f8 c c }
1592       \new Staff \with {
1593         alignAboveContext = #"main"
1594         % この譜には音部記号を譜刻しません
1595         \override Clef.stencil = ##f
1596         % この譜には拍子記号を譜刻しません
1597         \override TimeSignature.stencil = ##f
1598       }
1599       { f8 f c }
1600     >>
1601     r4 |
1602   }
1603 }
1604 @end lilypond
1605
1606 @code{transparent} プロパティを設定したり @code{stencil} を消すために@c
1607 短縮形 @code{\hide} と @code{\omit} を使うことができ、結果として@c
1608 以下のようになります:
1609
1610 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1611 \new Staff ="main" {
1612   \relative {
1613     r4 g'8 g c4 c8 d |
1614     e4 r8
1615     <<
1616       { f8 c c }
1617       \new Staff \with {
1618         alignAboveContext = #"main"
1619         % この譜には音部記号を譜刻しません
1620         \omit Clef
1621         % この譜には拍子記号を譜刻しません
1622         \omit TimeSignature
1623       }
1624       { f8 f c }
1625     >>
1626     r4 |
1627   }
1628 }
1629 @end lilypond
1630
1631 最後に、レイアウト オブジェクトのサイズを変更してみます。
1632
1633 いくつかのレイアウト オブジェクトはある書体から選択された図柄として@c
1634 作成されます。@c
1635 これには符頭、臨時記号、マークアップ、音部記号、拍子記号、強弱記号、@c
1636 歌詞が含まれます。@c
1637 それらのサイズは、これから見ていくように、@code{font-size} プロパティを@c
1638 変更することによって変更されます。@c
1639 スラーやタイのような他のレイアウト オブジェクト
1640 -- 一般には、スパナ オブジェクト (spanner objects)
1641 -- は個々に描かれるため、@c
1642 @code{font-size} プロパティとは関係がありません。@c
1643 一般に、それらのオブジェクトはそれらを取り付けられるオブジェクトからサイズを@c
1644 決定する (訳者: 例えば、スラーはそのスラーが付着する音符から@c
1645 そのスラーのサイズを決定する) ので、@c
1646 通常はサイズを手動で変更する必要はありません。@c
1647 さらに、符幹や小節線の長さ、連桁や他の線の太さ、譜線の間隔などといった@c
1648 他のプロパティはすべて特別な方法で変更する必要があります。
1649
1650 オッシアの例に戻って、まず @code{font-size} を変更してみましょう。@c
1651 これを行うには 2 通りの方法があります。@c
1652 以下のようなコマンドで @code{NoteHead} のような各オブジェクト タイプの@c
1653 フォント サイズを変更する:
1654
1655 @example
1656 \override NoteHead.font-size = #-2
1657 @end example
1658
1659 あるいは、@code{\set} を使って特別なプロパティ @code{fontSize} を設定するか、@c
1660 それを @code{\with} 節に含める
1661 (ただし、@code{\set} は含めません) ことによって@c
1662 すべてのフォントのサイズを変更します:
1663
1664 @example
1665 \set fontSize = #-2
1666 @end example
1667
1668 これらの命令文は両方ともフォント サイズを前の値から 2 段階減らします。@c
1669 各段階でサイズはおよそ 12% 増減します。
1670
1671 それではオッシアの例でフォント サイズを変更してみましょう:
1672
1673 @cindex alignAboveContext property, example (alignAboveContext プロパティの例)
1674 @cindex @code{\with}, example (@code{\with} の例)
1675 @cindex Clef, example of overriding (Clef をオーバライドする例)
1676 @cindex TimeSignature, example of overriding (TimeSignature をオーバライドする例)
1677 @cindex fontSize property, example (fontSize プロパティの例)
1678
1679 @c KEEP LY
1680 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1681 \new Staff ="main" {
1682   \relative {
1683     r4 g'8 g c4 c8 d |
1684     e4 r8
1685     <<
1686       { f8 c c }
1687       \new Staff \with {
1688         alignAboveContext = #"main"
1689         \omit Clef
1690         \omit TimeSignature
1691         % すべてのフォント サイズを約 24% 減らします
1692         fontSize = #-2
1693       }
1694       { f8 f c }
1695     >>
1696     r4 |
1697   }
1698 }
1699 @end lilypond
1700
1701 これでもまだ完璧ではありません。@c
1702 符頭とフラグは小さくなりましたが、符幹はそれに対して長すぎ、@c
1703 譜線は離れすぎています。@c
1704 これらをフォント サイズの減少に比例してスケール ダウンさせる必要があります。@c
1705 次のサブ セクションでそれを行う方法について議論します。
1706
1707
1708 @node オブジェクトの長さと太さ
1709 @subsection オブジェクトの長さと太さ
1710 @translationof Length and thickness of objects
1711
1712 @cindex distances (距離)
1713 @cindex thickness (太さ)
1714 @cindex length (長さ)
1715 @cindex magstep
1716 @cindex size, changing (サイズを変更する)
1717 @cindex stem length, changing (符幹の長さを変更する)
1718 @cindex staff line spacing, changing (譜線の間隔を変更する)
1719
1720 LilyPond では距離と長さは一般に譜スペース -- 譜の中の隣り合う線の間隔 --
1721 で測ります (特別な場合では、譜スペースの半分で測ることもあります)。@c
1722 一方、たいていの @code{thickness} プロパティは @code{line-thickness} と@c
1723 呼ばれる内部プロパティを単位として測ります。@c
1724 例えば、デフォルトでは、ヘアピン (訳者: 強弱記号) の線の太さは
1725 1 単位の @code{line-thickness} であり、@c
1726 音符の符幹の @code{thickness} は 1.3 です。@c
1727 けれども、それとは単位の異なる太さプロパティがあるということにも@c
1728 注意してください。@c
1729 例えば、連桁の太さプロパティは譜スペースで測ります。
1730
1731 それでは、どうやって長さをフォント サイズに比例させるのでしょうか?@c
1732 これは、まさにこの目的のために提供されている @code{magstep} と呼ばれる@c
1733 特別な関数の助けを借りることによって達成できます。@c
1734 この関数は引数を 1 つ -- フォント サイズの変化 (前の例では #-2) --
1735 をとり、他のオブジェクトの縮小に比例したスケーリング ファクタを返します。@c
1736 以下のように使用します:
1737
1738 @cindex alignAboveContext property, example (alignAboveContext プロパティの例)
1739 @cindex @code{\with}, example (@code{\with} の例)
1740 @cindex Clef, example of overriding (Clef をオーバライドする例)
1741 @cindex TimeSignature, example of overriding (TimeSignature をオーバライドする例)
1742 @cindex fontSize property, example (fontSize プロパティの例)
1743 @cindex StaffSymbol, example of overriding (StaffSymbol をオーバライドする例)
1744 @cindex magstep function, example of using (magstep 関数の使用例)
1745 @cindex staff-space property, example (staff-space プロパティの例)
1746 @cindex stencil property, example (stencil プロパティの例)
1747
1748 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1749 \new Staff ="main" {
1750   \relative {
1751     r4 g'8 g c4 c8 d |
1752     e4 r8
1753     <<
1754       { f8 c c }
1755       \new Staff \with {
1756         alignAboveContext = #"main"
1757         \omit Clef
1758         \omit TimeSignature
1759         fontSize = #-2
1760         % 符幹の長さと譜線の間隔を減らします
1761         \override StaffSymbol.staff-space = #(magstep -2)
1762       }
1763       { f8 f c }
1764     >>
1765     r4 |
1766   }
1767 }
1768 @end lilypond
1769
1770 @noindent
1771 符幹の長さと他の多くの長さに関係するプロパティは常に
1772 @code{staff-space} プロパティの値と比例関係になるよう算出されるため、@c
1773 それらの長さも自動的にスケール ダウンされます。@c
1774 これはオッシアの垂直方向のスケールだけに効果を及ぼすということに@c
1775 注意してください -- 水平方向のスケールは、メインの音楽と同期するよう、@c
1776 メインの音楽のレイアウトによって決定されるため、水平方向のスケールは
1777 @code{staff-space} の変更によっていかなる影響も受けません。@c
1778 もちろん、メインの音楽のすべてのスケールがこの方法で変更された場合、@c
1779 水平方向のスペースも影響を受けます。@c
1780 このことについては、後のレイアウト セクションで議論します。
1781
1782 そして、これでオッシアの作成は完了です。@c
1783 他のすべてのオブジェクトのサイズと長さが類似の方法で変更されるかもしれません。
1784
1785 上記の例のようなスケールのちょっとした変更に対して、小節線、連桁、ヘアピン、@c
1786 スラーなどのさまざまな描画線の太さは通常はグローバルな調節を必要としません。@c
1787 ある特定のレイアウト オブジェクトの太さを調節する必要がある場合、@c
1788 それを達成する最良の方法はそのオブジェクトの @code{thickness} プロパティを@c
1789 オーバライドすることです。@c
1790 スラーの太さを変更する例は @ref{レイアウト オブジェクトのプロパティ} で@c
1791 示されています。@c
1792 すべての描画オブジェクト (つまり、フォントから作り出される@c
1793 オブジェクトではないもの) の太さが同様の方法で変更されるかもしれません。
1794
1795
1796 @node オブジェクトの配置
1797 @section オブジェクトの配置
1798 @translationof Placement of objects
1799
1800 @menu
1801 * 自動配置::
1802 * 譜内部オブジェクト::
1803 * 譜外部オブジェクト::
1804 @end menu
1805
1806
1807 @node 自動配置
1808 @subsection 自動配置
1809 @translationof Automatic behavior
1810
1811 @cindex within-staff objects (譜内部オブジェクト)
1812 @cindex outside-staff objects (譜内部オブジェクト)
1813 @cindex objects, within-staff (譜内部オブジェクト)
1814 @cindex objects, outside-staff (譜外部オブジェクト)
1815
1816 音楽記譜法には譜に属するオブジェクトがいくつかあり、@c
1817 他のオブジェクトは譜の外側に置かれるべきです。@c
1818 それらはそれぞれ譜内部オブジェクトと譜外部オブジェクトと呼ばれます。
1819
1820 譜内部オブジェクトは譜上に置かれます
1821 -- 符頭、符幹、臨時記号などです。@c
1822 通常、それらの位置は音楽自体によって決定されます
1823 -- 譜内部オブジェクトは譜のある特定の線と同じ垂直位置に置かれたり、@c
1824 そこに置かれるべき他のオブジェクトにくっつけられたりします。@c
1825 近接する和音の中にある符頭、符幹、臨時記号の衝突は普通は自動的に回避されます。@c
1826 これから見ていくように、この自動配置を変更することができるコマンドと@c
1827 オーバライドがあります。
1828
1829 譜の外部にあるオブジェクトには、リハーサル記号、テキスト、@c
1830 強弱記号などがあります。@c
1831 LilyPond が持つ譜外部オブジェクトの垂直位置のルールは、@c
1832 譜外部オブジェクトをできるだけ譜の近くに、しかし他のオブジェクトと@c
1833 衝突しない程度の近さに置くというものです。@c
1834 以下で示すように、LilyPond はオブジェクトを配置する順番を決定するために
1835 @code{outside-staff-priority} プロパティを使用します。
1836
1837 最初に、LilyPond はすべての譜内部オブジェクトを配置します。@c
1838 それから、@code{outside-staff-priority} に従って譜外部オブジェクトを@c
1839 並べます。@c
1840 譜外部オブジェクトは最小の @code{outside-staff-priority} を@c
1841 持つオブジェクトから順番に 1 つずつ並べられ、すでに配置されたオブジェクトと@c
1842 衝突しないように配置されます。@c
1843 つまり、2 つの譜外部オブジェクトが同じスペースを巡って競合する場合、@c
1844 より小さな @code{outside-staff-priority} を持つオブジェクトが@c
1845 譜の近くに配置されます。@c
1846 2 つのオブジェクトが同じ @code{outside-staff-priority} を持つ場合、@c
1847 先に発生するオブジェクトが譜の近くに配置されます。
1848
1849 以下の例では、すべてのマークアップ テキストが同じ優先度を持っています
1850 (なぜなら、優先度が明示的にセットされていないからです)。@c
1851 @q{Text3} が自動的に譜の近く、@q{Text2} の@c
1852 すぐ下に納まるよう配置されていることに注意してください。
1853
1854 @cindex markup example (マークアップの例)
1855
1856 @lilypond[quote,fragment,ragged-right,verbatim]
1857 c''2^"Text1"
1858 c''2^"Text2" |
1859 c''2^"Text3"
1860 c''2^"Text4" |
1861 @end lilypond
1862
1863 デフォルトでは、譜も互いにできるだけ近くなるよう配置されます
1864 (最小間隔に従います)。@c
1865 音符が隣接する譜に向かって長く突き出てている場合、譜を離さないと@c
1866 記譜したものが重なり合ってしまう場合にのみ譜は離されます。@c
1867 以下の例は譜の調整によって音符が @q{ぴったりと納まる} 様子を示しています:
1868
1869 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
1870 <<
1871   \new Staff {
1872     \relative { c'4 a, }
1873   }
1874   \new Staff {
1875     \relative { c''''4 a, }
1876   }
1877 >>
1878 @end lilypond
1879
1880
1881 @node 譜内部オブジェクト
1882 @subsection 譜内部オブジェクト
1883 @translationof Within-staff objects
1884
1885 これまでにコマンド @code{\voiceXXX} がスラー、タイ、運指法記号、@c
1886 符幹の向きに依存する他のすべてに対してどのように影響を与えるかを見てきました
1887 -- @ref{Explicitly instantiating voices} を参照してください。
1888 これらのコマンドは、多声部音楽を記述しているときに上下する旋律を@c
1889 見分けられるようにすることを可能にするために不可欠なものです。@c
1890 しかしながら、この自動機能をオーバライドする必要がある場合もあります。@c
1891 このオーバライドは音楽全体に対しても、個々の音符に対してもできます。@c
1892 この自動機能を制御しているプロパティは各レイアウト オブジェクトの
1893 @code{direction} プロパティです。@c
1894 まず、これは何をするのかを説明し、それから、作成済みのコマンドを@c
1895 いくつか紹介します。@c
1896 それらのコマンドを使うと、一般的な変更のための明示的なオーバライドを@c
1897 コードしなくて済みます。
1898
1899 スラーやタイのようなレイアウト オブジェクトはカーブを描き、曲がり、@c
1900 上下します。@c
1901 符幹やフラグのような他のオブジェクトも上下の向きによって位置が左右します。@c
1902 @code{direction} がセットされているときは、これは自動的に制御されます。
1903
1904 @menu
1905 * direction プロパティ::
1906 * 運指::
1907 @end menu
1908
1909 @node direction プロパティ
1910 @unnumberedsubsubsec @code{direction} プロパティ
1911 @translationof The direction property
1912
1913 @cindex down (下)
1914 @cindex up (上)
1915 @cindex center (中央)
1916 @cindex neutral (ニュートラル)
1917
1918 以下の例は、小節 1 で符幹のデフォルトの振る舞いを示しています。@c
1919 高い位置にある音符の符幹は下向きで、低い位置にある音符の符幹は上向きです。@c
1920 続いて 4 つの音符の符幹をすべて強制的に下向きにし、4 つの音符の符幹を@c
1921 すべて強制的に上向きにし、最後に 4 つの音符の符幹をデフォルトに戻します。
1922
1923 @cindex Stem, example of overriding (Stem をオーバライドする例)
1924 @cindex direction property, example (direction プロパティの例)
1925
1926 @lilypond[quote,fragment,ragged-right,verbatim,relative=2]
1927 a4 g c a |
1928 \override Stem.direction = #DOWN
1929 a4 g c a |
1930 \override Stem.direction = #UP
1931 a4 g c a |
1932 \revert Stem.direction
1933 a4 g c a |
1934 @end lilypond
1935
1936 ここで定数 @code{DOWN} と @code{UP} を使っています。@c
1937 これらはそれぞれ値 @w{@code{-1}} と @code{+1} を持ち、定数の代わりに@c
1938 それらの数値を使うこともできまはす。@c
1939 さらに値 @code{0} を使う場合もあります。@c
1940 この値は符幹では @code{UP} を意味するものとして扱われますが、@c
1941 いくつかのオブジェクトでは @q{center} という意味になります。@c
1942 値 @code{0} を持つ定数に @code{CENTER} があります。
1943
1944 しかしながら、これらの明示的なオーバライドは普通は使われません。@c
1945 もっと簡単で定義済みのコマンドが利用可能だからです。@c
1946 ここに一般的なコマンドの表を挙げます。@c
1947 それぞれのコマンドの意味が明白でない場合は、そのコマンドの意味を述べています。
1948
1949 @multitable @columnfractions .2 .2 .25 .35
1950 @headitem 下/左
1951   @tab 上/右
1952   @tab 元に戻す
1953   @tab 効果
1954 @item @code{\arpeggioArrowDown}
1955   @tab @code{\arpeggioArrowUp}
1956   @tab @code{\arpeggioNormal}
1957   @tab 矢印が下に付く、上に付く、付かない
1958 @item @code{\dotsDown}
1959   @tab @code{\dotsUp}
1960   @tab @code{\dotsNeutral}
1961   @tab 譜線を避けるための移動方向
1962 @item @code{\dynamicDown}
1963   @tab @code{\dynamicUp}
1964   @tab @code{\dynamicNeutral}
1965   @tab
1966 @item @code{\phrasingSlurDown}
1967   @tab @code{\phrasingSlurUp}
1968   @tab @code{\phrasingSlurNeutral}
1969   @tab Note: スラー コマンドとは別になります
1970 @item @code{\slurDown}
1971   @tab @code{\slurUp}
1972   @tab @code{\slurNeutral}
1973   @tab
1974 @item @code{\stemDown}
1975   @tab @code{\stemUp}
1976   @tab @code{\stemNeutral}
1977   @tab
1978 @item @code{\textSpannerDown}
1979   @tab @code{\textSpannerUp}
1980   @tab @code{\textSpannerNeutral}
1981   @tab スパナとして挿入されるテキストが譜の下/上にくる
1982 @item @code{\tieDown}
1983   @tab @code{\tieUp}
1984   @tab @code{\tieNeutral}
1985   @tab
1986 @item @code{\tupletDown}
1987   @tab @code{\tupletUp}
1988   @tab @code{\tupletNeutral}
1989   @tab 連符記号が音符の下/上にくる
1990 @end multitable
1991
1992 これらのコマンドで中立/通常の位置に戻すコマンドは @code{\revert} を@c
1993 用いることで実装されていて、前に @code{\once} が付いて @strong{いない}
1994 かもしれません。@c
1995 @code{\override} を用いて実装されているコマンドの効果を単一のタイミング@c
1996 に限定したいのであれば、明示的なオーバライドの場合と同様に、@c
1997 コマンドの前に @code{\once} を配置します。
1998
1999 @node 運指
2000 @unnumberedsubsubsec 運指
2001 @translationof Fingering
2002
2003 @cindex fingering, placement (運指法記号の配置)
2004 @cindex fingering, chords (和音の運指法記号)
2005
2006 単一の音符に対する運指法記号の配置も @code{direction} プロパティによって@c
2007 制御できますが、@code{direction} を変更しても和音の運指法記号は影響を@c
2008 受けません。@c
2009 これから見ていくように、和音の中の個々の音符の運指法記号を制御するための@c
2010 特別なコマンドがあります。@c
2011 このコマンドを使うことで運指法記号を各音符の上、下、左、右に@c
2012 配置することができます。
2013
2014 まず、単一の音符の運指法記号に対する @code{direction} を効果を示します。@c
2015 最初の小節はデフォルト状態で、その後で @code{DOWN} と @code{UP} を@c
2016 指定したときの効果を示します:
2017
2018 @cindex Fingering, example of overriding (Fingering をオーバライドする例)
2019 @cindex direction property, example (direction プロパティの例)
2020
2021 @lilypond[quote,verbatim]
2022 \relative {
2023   c''4-5 a-3 f-1 c'-5 |
2024   \override Fingering.direction = #DOWN
2025   c4-5 a-3 f-1 c'-5 |
2026   \override Fingering.direction = #UP
2027   c4-5 a-3 f-1 c'-5 |
2028 }
2029 @end lilypond
2030
2031 しかしながら、@code{direction} プロパティをオーバライドすることは、@c
2032 手動で運指法記号を音符の上または下に配置するもっとも簡単な方法ではありません。@c
2033 運指法番号の前に @code{-} の代わりに @code{_} または @code{^} を使う方が@c
2034 普通は適切です。@c
2035 ここで、上記の例にこの方法を用いた例を挙げます:
2036
2037 @cindex fingering example (運指法記号の例)
2038
2039 @lilypond[quote,verbatim]
2040 \relative {
2041   c''4-5 a-3 f-1 c'-5 |
2042   c4_5 a_3 f_1 c'_5 |
2043   c4^5 a^3 f^1 c'^5 |
2044 }
2045 @end lilypond
2046
2047 @code{direction} プロパティは和音では無視されますが、@c
2048 方向を示す接頭辞 @code{_} と @code{^} は機能します。@c
2049 以下で示すように、デフォルトでは、運指法記号は和音の音符の@c
2050 上と下の両方に自動的に配置されます:
2051
2052 @cindex fingering example (運指法記号の例)
2053
2054 @lilypond[quote,verbatim]
2055 \relative {
2056   <c''-5 g-3>4
2057   <c-5 g-3 e-2>4
2058   <c-5 g-3 e-2 c-1>4
2059 }
2060 @end lilypond
2061
2062 @noindent
2063 しかし、以下で示すように、運指法番号のすべてまたはいずれかを手動で強制的に@c
2064 和音の上または下に配置するために、これはオーバライドされるかもしれません:
2065
2066 @cindex fingering example (運指法記号の例)
2067
2068 @lilypond[quote,verbatim]
2069 \relative {
2070   <c''-5 g-3 e-2 c-1>4
2071   <c^5 g_3 e_2 c_1>4
2072   <c^5 g^3 e^2 c_1>4
2073 }
2074 @end lilypond
2075
2076 @code{\set fingeringOrientations} コマンドを使うことによって和音の中に@c
2077 ある個々の音符の運指法記号の配置をより細かく制御することさえできます。@c
2078 このコマンドのフォーマットは以下のようなものです:
2079
2080 @example
2081 @code{\set fingeringOrientations = #'([up] [left/right] [down])}
2082 @end example
2083
2084 @noindent
2085 @code{fingeringOrientations} は @code{Voice} コンテキストのプロパティであり、@c
2086 @code{New_fingering_engraver} によって作成、使用されるため、@c
2087 @code{\set} が使用されます。
2088
2089 このプロパティには 1 つから 3 つまでの値のリストがセットされるかもしれません。@c
2090 このプロパティは運指法記号を上 (リストに @code{up} がある場合)、@c
2091 下 (リストに @code{down} がある場合)、@c
2092 左 (リストに @code{left} がある場合。リストに @code{right} がある場合は右)
2093 に配置します。@c
2094 逆に配置位置がリストされていない場合、その位置に運指法記号は配置されません。@c
2095 LilyPond はこれらの制約を受け取り、
2096 後に続く和音の音符への運指法記号をうまく配置します。@c
2097 @code{left} と @code{right} は相互排他的であるということに注意してください --
2098 運指法記号は左右のどちらかにしか配置されないか、どちらにも配置されません。
2099
2100 @warning{このコマンドを使って単一の音符への運指法記号の配置を@c
2101 コントロールするには、その音符を山括弧で囲んで単一音符の和音として@c
2102 記述する必要があります。}
2103
2104 いくつか例を挙げます:
2105
2106 @cindex fingering example (運指法記号の例)
2107 @cindex @code{\set}, example of using (@code{\set} の使用例)
2108 @cindex fingeringOrientations property, example (fingeringOrientations プロパティの例)
2109
2110 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
2111 \relative {
2112   \set fingeringOrientations = #'(left)
2113   <f'-2>4
2114   <c-1 e-2 g-3 b-5>4
2115   \set fingeringOrientations = #'(left)
2116   <f-2>4
2117   <c-1 e-2 g-3 b-5>4 |
2118   \set fingeringOrientations = #'(up left down)
2119   <f-2>4
2120   <c-1 e-2 g-3 b-5>4
2121   \set fingeringOrientations = #'(up left)
2122   <f-2>4
2123   <c-1 e-2 g-3 b-5>4 |
2124   \set fingeringOrientations = #'(right)
2125   <f-2>4
2126   <c-1 e-2 g-3 b-5>4
2127 }
2128 @end lilypond
2129
2130 @noindent
2131 運指法記号が少し込み合っているように見える場合は、@c
2132 @code{font-size} でサイズを下げることができます。@c
2133 デフォルト値は内部リファレンスの @code{Fingering} オブジェクトのページから
2134 @w{@code{-5}} であることがわかるので、@w{@code{-7}} にセットしてみましょう:
2135
2136 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
2137 \relative {
2138   \override Fingering.font-size = #-7
2139   \set fingeringOrientations = #'(left)
2140   <f'-2>4
2141   <c-1 e-2 g-3 b-5>4
2142   \set fingeringOrientations = #'(left)
2143   <f-2>4
2144   <c-1 e-2 g-3 b-5>4 |
2145   \set fingeringOrientations = #'(up left down)
2146   <f-2>4
2147   <c-1 e-2 g-3 b-5>4
2148   \set fingeringOrientations = #'(up left)
2149   <f-2>4
2150   <c-1 e-2 g-3 b-5>4 |
2151   \set fingeringOrientations = #'(right)
2152   <f-2>4
2153   <c-1 e-2 g-3 b-5>4
2154 }
2155 @end lilypond
2156
2157
2158 @node 譜外部オブジェクト
2159 @subsection 譜外部オブジェクト
2160 @translationof Outside-staff objects
2161
2162 譜外部オブジェクトは自動的に衝突を回避するよう配置されます。@c
2163 配置が最適でない場合に自動配置をオーバライドする方法がいくつかあります。
2164
2165 @menu
2166 * outside-staff-priority プロパティ::
2167 * \textLengthOn コマンド::
2168 * 強弱記号の配置::
2169 * グラフィカル オブジェクトのサイズ::
2170 @end menu
2171
2172
2173 @node outside-staff-priority プロパティ
2174 @unnumberedsubsubsec @code{outside-staff-priority} プロパティ
2175 @translationof The outside-staff-priority property
2176
2177 小さな値の @code{outside-staff-priority} プロパティを持つオブジェクトは@c
2178 譜の近くに配置され、他の譜外部オブジェクトは衝突を避けるのに必要な分だけ@c
2179 離されます。@c
2180 @code{outside-staff-priority} は @code{grob-interface} の中で@c
2181 定義されているため、すべてのレイアウト  オブジェクトのプロパティです。@c
2182 デフォルトでは、すべての譜内部オブジェクトの @code{outside-staff-priority} は
2183 @code{#f} にセットされていて、譜外部オブジェクトが作成されたときに@c
2184 その譜外部オブジェクトの @code{outside-staff-priority} に適当な数値が@c
2185 セットされます。@c
2186 以下の表はいくつかの一般的な譜外部オブジェクトのデフォルトの
2187 @code{outside-staff-priority} 値を示しています。
2188
2189 @multitable @columnfractions .3 .3 .3
2190 @headitem レイアウト オブジェクト
2191   @tab 優先度
2192   @tab 以下のオブジェクトの配置を制御する:
2193 @item @code{RehearsalMark}
2194   @tab @code{1500}
2195   @tab リハーサル記号
2196 @item @code{MetronomeMark}
2197   @tab @code{1000}
2198   @tab メトロノーム記号
2199 @item @code{VoltaBracketSpanner}
2200   @tab @code{600}
2201   @tab Volta (番号付きのリピート) の囲み
2202 @item @code{TextScript}
2203   @tab @code{450}
2204   @tab マークアップ テキスト
2205 @item @code{MultiMeasureRestText}
2206   @tab @code{450}
2207   @tab 全休符上のテキスト
2208 @item @code{OttavaBracket}
2209   @tab @code{400}
2210   @tab オッターバ (オクターブを上下させる記号) の囲み
2211 @item @code{TextSpanner}
2212   @tab @code{350}
2213   @tab テキスト スパナ
2214 @item @code{DynamicLineSpanner}
2215   @tab @code{250}
2216   @tab すべての強弱記号
2217 @item @code{BarNumber}
2218   @tab @code{100}
2219   @tab 小節番号
2220 @item @code{TrillSpanner}
2221   @tab @code{50}
2222   @tab トリル記号
2223 @end multitable
2224
2225 これらのうちのいくつかのデフォルトでの配置を示している例を挙げます。
2226
2227 @cindex text spanner (テキスト スパナ)
2228 @cindex ottava bracket (オッターバ囲み)
2229
2230 @funindex \startTextSpan
2231 @funindex \stopTextSpan
2232
2233 @cindex TextSpanner, example of overriding (TextSpanner をオーバライドする例)
2234 @cindex bound-details property, example (bound-details プロパティの例)
2235
2236 @c KEEP LY
2237 @lilypond[quote,fragment,ragged-right,verbatim]
2238 % 以降のテキスト スパナの詳細を設定します
2239 \override TextSpanner.bound-details.left.text
2240     = \markup { \small \bold Slower }
2241 % 強弱記号を譜の上に配置します
2242 \dynamicUp
2243 % オッターバ囲みの開始
2244 \ottava #1
2245 c''4 \startTextSpan
2246 % 強弱テキストとヘアピンを付け加えます
2247 c''4\pp\<
2248 c''4
2249 % テキスト スクリプトを付け加えます
2250 c''4^Text |
2251 c''4 c''
2252 % 強弱テキストを付け加え、強弱ヘアピンを終わらせます
2253 c''4\ff c'' \stopTextSpan |
2254 % オッターバ囲みを終わらせます
2255 \ottava #0
2256 c'4 c' c' c' |
2257 @end lilypond
2258
2259 この例はテキスト スパナ -- 音楽の上に置かれる延長線付きのテキスト -- の@c
2260 作成方法についても示しています。@c
2261 スパナは @code{\startTextSpan} コマンドから
2262 @code{\stopTextSpan} コマンドまで延び、テキストのフォーマットは
2263 @code{\override TextSpanner} コマンドによって定義されます。@c
2264 詳細は @ruser{テキスト スパナ} を参照してください。
2265
2266 この例はさらにオッターバ囲みを作成する方法についても示しています。
2267
2268 @cindex tweaking bar number placement (小節番号の配置を調節する)
2269 @cindex bar numbers, tweaking placement (小節番号の配置を調節する)
2270 @cindex tweaking metronome mark placement (メトロノーム記号の配置を調節する)
2271 @cindex metronome mark, tweaking placement (メトロノーム記号の配置を調節する)
2272 @cindex tweaking rehearsal mark placement (リハーサル記号の配置を調節する)
2273 @cindex rehearsal marks, tweaking placement (リハーサル記号の配置を調節する)
2274
2275 @code{outside-staff-priority} のデフォルト値による配置が@c
2276 あなたの望みに合わない場合、いずれかのオブジェクトの優先度を@c
2277 オーバライドすることになるかもしれません。@c
2278 上記の例で、オッターバ囲みをテキスト スパナの下に配置したいとします。@c
2279 すべきことは、@code{OttavaBracket} は @code{Staff} コンテキストの中に@c
2280 作成されるということを思い出し、@code{OttavaBracket} の優先度を@c
2281 内部リファレンスか上記の表で調べて、それを @code{TextSpanner} の値よりも@c
2282 小さくすることです:
2283
2284 @cindex TextSpanner, example of overriding (TextSpanner をオーバライドする例)
2285 @cindex bound-details property, example (bound-details プロパティの例)
2286
2287 @c KEEP LY
2288 @lilypond[quote,fragment,ragged-right,verbatim]
2289 % 以降のテキスト スパナの詳細を設定します
2290 \override TextSpanner.bound-details.left.text
2291     = \markup { \small \bold Slower }
2292 % 強弱記号を譜の上に配置します
2293 \dynamicUp
2294 % 以降のオッターバ囲みをテキスト スパナの下に配置します
2295 \once \override Staff.OttavaBracket.outside-staff-priority = #340
2296 % オッターバ囲みの開始
2297 \ottava #1
2298 c''4 \startTextSpan
2299 % 強弱テキストを付け加えます
2300 c''4\pp
2301 % 強弱の線スパナを付け加えます
2302 c''4\<
2303 % テキスト スクリプトを付け加えます
2304 c''4^Text |
2305 c''4 c''
2306 % 強弱テキストを付け加えます
2307 c''4\ff c'' \stopTextSpan |
2308 % オッターバ囲みを終わらせます
2309 \ottava #0
2310 c'4 c' c' c' |
2311 @end lilypond
2312
2313 これらのオブジェクトのいくつか
2314 -- 特に、小節番号、メトロノーム記号、それにリハーサル記号 --
2315 はデフォルトでは @code{Score} コンテキストの中にあるため、@c
2316 それらのプロパティをオーバライドする場合は適切なコンテキストを@c
2317 指定する必要があることに注意してください。
2318
2319 @cindex slurs and outside-staff-priority (スラーと outside-staff-priority)
2320 @cindex slurs and articulations (スラーとアーティキュレーション)
2321 @cindex articulations and slurs (アーティキュレーションとスラー)
2322
2323 スラーはデフォルトでは譜内部オブジェクトに分類されています。@c
2324 しかしながら、譜の上部に配置された音符に付くスラーは@c
2325 しばしば譜の上に表示されます。@c
2326 このことは、スラーがまず最初に配置されるため、アーティキュレーションなどの@c
2327 譜外部オブジェクトをあまりにも高い位置に押し上げる可能性があります。@c
2328 アーティキュレーションの @code{avoid-slur} プロパティに
2329 @code{'inside} をセットすることでアーティキュレーションを@c
2330 スラーよりも内側に配置することができます。@c
2331 しかし、@code{avoid-slur} プロパティはアーティキュレーションの
2332 @code{outside-staff-priority} が @code{#f} にセットされている場合にのみ@c
2333 効果を持ちます。@c
2334 代替手段として、スラーの @code{outside-staff-priority} に数値を@c
2335 セットすることによって、スラーを他の譜外部オブジェクトとともに
2336 @code{outside-staff-priority} 値に従って配置することができます。@c
2337 ここで、2 つの方法の効果を示す例を挙げます:
2338
2339 @lilypond[quote,verbatim]
2340 \relative c'' {
2341   c4( c^\markup { \tiny \sharp } d4.) c8 |
2342   c4(
2343     \once \override TextScript.avoid-slur = #'inside
2344     \once \override TextScript.outside-staff-priority = ##f
2345     c4^\markup { \tiny \sharp } d4.) c8 |
2346   \once \override Slur.outside-staff-priority = #500
2347     c4( c^\markup { \tiny \sharp } d4.) c8 |
2348 }
2349 @end lilypond
2350
2351 @code{outside-staff-priority} は、個々のオブジェクトの垂直方向の配置を@c
2352 制御するために使用することもできます。@c
2353 しかしながら、その結果は常に望み通りになるわけではありません。@c
2354 @ref{自動配置} にある例で @qq{Text3} を @qq{Text4} の上に@c
2355 配置したいとします。@c
2356 すべきことは @code{TextScript} の優先度を内部リファレンスか上記の表で調べて、@c
2357 @qq{Text3} の優先度を大きくすることです:
2358
2359 @cindex TextScript, example of overriding (TextScript をオーバライドする例)
2360 @cindex outside-staff-priority property, example (outside-staff-priority プロパティの例)
2361
2362 @lilypond[quote,fragment,ragged-right,verbatim]
2363 c''2^"Text1"
2364 c''2^"Text2" |
2365 \once \override TextScript.outside-staff-priority = #500
2366 c''2^"Text3"
2367 c''2^"Text4" |
2368 @end lilypond
2369
2370 これはたしかに @qq{Text3} を @qq{Text4} の上に配置しています。@c
2371 しかし、@qq{Text3}を @qq{Text2} の上に配置して、@c
2372 @qq{Text4} を押し下げてもいます。@c
2373 おそらく、これはそれほど望ましい結果ではないでしょう。@c
2374 本当に望んでいることは、すべての注釈を@c
2375 譜の上に譜から同じ距離だけ離して配置することです。@c
2376 そうするには明らかに、テキストのためにもっと広いスペースを確保するために、@c
2377 音符を水平方向に広げる必要があります。@c
2378 これは @code{\textLengthOn} コマンドを用いることで達成できます。
2379
2380 @node \textLengthOn コマンド
2381 @unnumberedsubsubsec @code{\textLengthOn} コマンド
2382 @translationof The \textLengthOn command
2383
2384 @cindex notes, spreading out with text (テキストに合わせて音符の間隔を広げる)
2385
2386 @funindex \textLengthOn
2387 @funindex \textLengthOff
2388
2389 デフォルトでは、音楽のレイアウトが考慮されている限り、@c
2390 マークアップによって作り出されるテキストは水平方向のスペースと関係しません。@c
2391 @code{\textLengthOn} コマンドはこの動作を逆にして、@c
2392 テキストの配置に便宜をはかる必要がある限り、音符の間隔を広げます:
2393
2394 @c KEEP LY
2395 @lilypond[quote,fragment,ragged-right,verbatim]
2396 \textLengthOn  % 音符の間隔を広げてテキストに揃えます
2397 c''2^"Text1"
2398 c''2^"Text2" |
2399 c''2^"Text3"
2400 c''2^"Text4" |
2401 @end lilypond
2402
2403 デフォルトの動作に戻すためのコマンドは @code{\textLengthOff} です。@c
2404 効果を与えるのが単一の音楽タイミングであれば、@code{\textLengthOn}
2405 に @code{\once} を付ける方法もあります。
2406
2407 @cindex markup text, allowing collisions (マークアップ テキストの衝突を許可する)
2408
2409 マークアップ テキストは譜の上に突き出している音符を避けます。@c
2410 このことが望ましくない場合、優先度を @code{#f} にセットすることによって@c
2411 上方向への自動再配置を Off にすることになるかもしれません。@c
2412 ここで、マークアップ テキストがそのような音符とどのように相互作用するかを@c
2413 示す例を挙げます。
2414
2415 @cindex TextScript, example of overriding (TextScript をオーバライドする例)
2416 @cindex outside-staff-priority property, example (outside-staff-priority プロパティの例)
2417
2418 @c KEEP LY
2419 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
2420 \relative {
2421   % このマークアップは短いため衝突は起きません
2422   c''2^"Tex" c'' |
2423   R1 |
2424
2425   % このマークアップは長くて納まりきらないため、上に押し上げられます
2426   c,,2^"Text" c'' |
2427   R1 |
2428
2429   % 衝突回避を OFF にします
2430   \once \override TextScript.outside-staff-priority = ##f
2431   c,,2^"Long Text   " c'' |
2432   R1 |
2433
2434   % 衝突回避を OFF にします
2435   \once \override TextScript.outside-staff-priority = ##f
2436   \textLengthOn        % そして textLengthOn を ON にします
2437   c,,2^"Long Text   "  % 後ろにスペースが付け加えられます
2438   c''2 |
2439 }
2440 @end lilypond
2441
2442
2443 @node 強弱記号の配置
2444 @unnumberedsubsubsec 強弱記号の配置
2445 @translationof Dynamics placement
2446
2447 @cindex tweaking dynamics placement (強弱記号の配置を調整する)
2448 @cindex dynamics, tweaking placement (強弱記号の配置を調整する)
2449
2450 通常、強弱記号は譜の下に配置されます。@c
2451 しかしながら、@code{\dynamicUp} コマンドを使うことで上に配置される@c
2452 かもしれません。@c
2453 強弱記号は、その記号が付いている音符と垂直方向の関係で配置され、@c
2454 フレージング スラーや小節番号などの譜内部オブジェクトのすべてよりも@c
2455 下 (あるいは上) に配置されます。@c
2456 このことは、以下の例のように、@c
2457 到底受け入れられない結果を生み出す可能性があります:
2458
2459 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
2460 \relative {
2461   \clef "bass"
2462   \key aes \major
2463   \time 9/8
2464   \dynamicUp
2465   bes4.~\f\< \( bes4 bes8 des4\ff\> c16 bes\! |
2466   ees,2.~\)\mf ees4 r8 |
2467 }
2468 @end lilypond
2469
2470 しかしながら、音符とそれに付けられた強弱記号が互いに近い場合、@c
2471 自動配置は後の方にある強弱記号を譜から離すことによって衝突を避けます。@c
2472 しかし、以下のかなり不自然な例が示すように、@c
2473 それは最適な配置ではないかもしれません:
2474
2475 @lilypond[quote,fragment,ragged-right,verbatim,relative=2]
2476 \dynamicUp
2477 a4\f b\mf c\mp b\p
2478 @end lilypond
2479
2480 @noindent
2481 @q{実際} の音楽で同じような状況があった場合、音符の間隔をもう少し広げて、@c
2482 すべての強弱記号が譜から垂直方向に同じだけ離れるようにする方が@c
2483 望ましいかもしれません。@c
2484 マークアップ テキストの場合は @code{\textLengthOn} コマンドを@c
2485 用いることによってそうすることができますが、@c
2486 強弱記号には等価のコマンドがありません。@c
2487 そのため、@code{\override} コマンドを用いてそれを達成する方法を@c
2488 見出す必要があります。
2489
2490 @node グラフィカル オブジェクトのサイズ
2491 @unnumberedsubsubsec グラフィカル オブジェクトのサイズ
2492 @translationof Grob sizing
2493
2494 @cindex grob sizing (グラフィカル オブジェクトのサイズを決定する)
2495 @cindex sizing grobs (グラフィカル オブジェクトのサイズを決定する)
2496
2497 まず最初に、グラフィカル オブジェクトのサイズがどのように決定されるかを@c
2498 学ばなくてはなりません。@c
2499 すべてのグラフィカル オブジェクトの内部では参照ポイントが定義され、@c
2500 それはそれらの親オブジェクトとの相対位置を決定するために使用されます。@c
2501 このポイントは親オブジェクトから垂直方向に @code{X-offset}、@c
2502 垂直方向に @code{Y-offset} 離れた位置になります。@c
2503 オブジェクトの水平方向の広がりは数値のペア @code{X-extent} で与えられ、@c
2504 そのペアはオブジェクトの左端と右端の参照ポイントとの相対関係について@c
2505 述べています。@c
2506 垂直方向の広がりも同様に数値のペア @code{Y-extent} によって与えられます。@c
2507 これらは @code{grob-interface} をサポートする@c
2508 すべてのグラフィカル オブジェクトが持つプロパティです。
2509
2510 @cindex @code{extra-spacing-width}
2511
2512 デフォルトでは、譜外部オブジェクトには 0 の幅が与えられているため、@c
2513 水平方向で重なる可能性があります。@c
2514 これは @code{extra-spacing-width} に @code{'(+inf.0 . -inf.0)} を@c
2515 セットすることによって、左端の広がりにプラス無限大、右端の広がりに@c
2516 マイナス無限大を付け加えるというトリックによって達成されています。@c
2517 そのため、譜外部オブジェクトが水平方向で重ならないことを保証するには、@c
2518 @code{extra-spacing-width} の値を @code{'(0 . 0)} に@c
2519 オーバライドする必要があります。@c
2520 これにより、本当の幅が明らかになります。@c
2521 以下は強弱記号テキストに対してこれを行うコマンドです:
2522
2523 @example
2524 \override DynamicText.extra-spacing-width = #'(0 . 0)
2525 @end example
2526
2527 @noindent
2528 これが前の例で機能するかどうかを見てみましょう:
2529
2530 @cindex DynamicText, example of overriding (DynamicText をオーバライドする例)
2531 @cindex extra-spacing-width property, example (extra-spacing-width プロパティの例)
2532
2533 @lilypond[quote,fragment,ragged-right,verbatim,relative=2]
2534 \dynamicUp
2535 \override DynamicText.extra-spacing-width = #'(0 . 0)
2536 a4\f b\mf c\mp b\p |
2537 @end lilypond
2538
2539 @noindent
2540 確かに強弱記号の再配置をストップさせています。@c
2541 しかし、2 つの問題が残っています。@c
2542 強弱記号を互いにもう少し離すべきであり、それらは譜から@c
2543 同じ距離にあるほうが望ましいです。@c
2544 最初の問題は簡単に解決できます。@c
2545 @code{extra-spacing-width} を 0 にする代わりに、@c
2546 もう少し大きな値を与えるのです。@c
2547 単位は 2 本の譜線の間隔なので、左端を 1 単位の半分だけ左に移動させ、@c
2548 右端を 1 単位の半分だけ右に移動させると解決になります:
2549
2550 @cindex DynamicText, example of overriding (DynamicText をオーバライドする例)
2551 @cindex extra-spacing-width property, example (extra-spacing-width プロパティの例)
2552
2553 @lilypond[quote,fragment,ragged-right,verbatim,relative=2]
2554 \dynamicUp
2555 % Extend width by 1 staff space
2556 \override DynamicText.extra-spacing-width = #'(-0.5 . 0.5)
2557 a4\f b\mf c\mp b\p
2558 @end lilypond
2559
2560 @noindent
2561 これで前よりも良くなりました。@c
2562 しかし、強弱記号が音符に合わせて上下するよりも、@c
2563 同じベースラインで揃っている方が望ましいでしょう。@c
2564 それを行うためのプロパティは @code{staff-padding} であり、@c
2565 後に続くセクションでカバーされています。
2566
2567
2568 @node オブジェクトの衝突
2569 @section オブジェクトの衝突
2570 @translationof Collisions of objects
2571
2572 @menu
2573 * オブジェクトを移動させる::
2574 * 表記の重なりを修正する::
2575 * 実際の音楽からの例::
2576 @end menu
2577
2578
2579 @node オブジェクトを移動させる
2580 @subsection オブジェクトを移動させる
2581 @translationof Moving objects
2582
2583 @cindex moving overlapping objects (重なり合っているオブジェクトを移動させる)
2584 @cindex moving colliding objects (衝突しているオブジェクトを移動させる)
2585 @cindex moving colliding grobs (衝突しているグラフィカル オブジェクトを移動させる)
2586 @cindex objects, moving colliding (衝突しているオブジェクトを移動させる)
2587 @cindex grobs, moving colliding (衝突しているグラフィカル オブジェクトを移動させる)
2588
2589 これを聞いて驚くかもしれませんが、LilyPond は完璧ではありません。@c
2590 いくつかの記譜要素が重なりある可能性があります。@c
2591 これは遺憾なことですが、実際にはごく稀です。@c
2592 通常、オブジェクトを移動させる必要性は読みやすさや美しさのためです
2593 -- オブジェクトの周りにもう少しスペースを多く/少なくとった方が@c
2594 より良くなるといった場合です。
2595
2596 記譜要素の重なりを解決する主要なアプローチが 3 つあります。@c
2597 それらは以下の順番で考慮されるべきです:
2598
2599 @enumerate
2600 @item
2601 重なり合っているオブジェクトの 1 つの @strong{direction} を
2602 @ref{譜内部オブジェクト} でリストアップした内部オブジェクトのための@c
2603 定義済みコマンドを用いて変更することになるかもしれません。@c
2604 符幹、スラー、連桁、タイ、強弱記号、テキスト、@c
2605 連符はこの方法で容易に再配置できるかもしれません。@c
2606 この方法の限界は配置の仕方の選択肢が 2 つしかないことであり、@c
2607 どちらも適当でないかもしれません。
2608
2609 @item
2610 LilyPond がレイアウト オブジェクトを配置するときに使用する@c
2611 @strong{オブジェクト プロパティ}を @code{\override} を用いて@c
2612 変更することになるかもしれません。@c
2613 オブジェクト プロパティに変更を加えることの利点は、@c
2614 (a) スペースをとる必要がある場合に他のいくつかのオブジェクトは@c
2615 自動的に移動させられます、@c
2616 (b) 1 回のオーバライドを同じオブジェクト タイプの@c
2617 インスタンスすべてに適用することができます。@c
2618 変更するプロパティには以下のものが含まれます:
2619
2620 @itemize
2621
2622 @item
2623 @code{direction}
2624
2625 これはすでに詳しくカバーされています --
2626 @ref{譜内部オブジェクト} を参照してください。
2627
2628 @item
2629 @code{padding}, @code{left-padding},
2630 @code{right-padding}, @code{staff-padding}
2631
2632 @cindex padding (パディング)
2633 @cindex left-padding property (left-padding プロパティ)
2634 @cindex padding property (padding プロパティ)
2635 @cindex right-padding property (right-padding プロパティ)
2636 @cindex staff-padding property (staff-padding プロパティ)
2637
2638 あるオブジェクトが配置されるとき、そのオブジェクトの
2639 @code{padding} プロパティが、そのオブジェクトとそのオブジェクトに@c
2640 最も隣接するオブジェクトの端との間に置かれる間隔を指定します。@c
2641 @strong{配置される最中}のオブジェクトの @code{padding} 値が@c
2642 使用されるということに注意してください。@c
2643 すでに配置されたオブジェクトの @code{padding} 値は無視されます。@c
2644 @code{padding} によって指定された間隔は @code{side-position-interface} を@c
2645 サポートするオブジェクトすべてに適用することができます。
2646
2647 臨時記号のグループの配置は、@code{padding} の代わりに、@code{left-padding} と
2648 @code{right-padding} によって制御されます。@c
2649 これらのプロパティは @code{AccidentalPlacement} オブジェクトの中にあり、@c
2650 注意すべきことに、そのオブジェクトは
2651 @strong{Staff} コンテキストの中にあります。@c
2652 譜刻プロセスでは、符頭が最初に譜刻され、臨時記号 (がある場合は) が@c
2653 次に符頭の左側に付け加えられます。@c
2654 このとき、臨時記号と符頭の間隔は
2655 @code{right-padding} プロパティによって指定されます。@c
2656 そのため、@code{AccidentalPlacement} オブジェクトの
2657 @code{right-padding} プロパティだけが臨時記号の配置に影響を与えます。
2658
2659 @code{staff-padding} プロパティは @code{padding} プロパティと@c
2660 深い関わりがあります:
2661 @code{padding} プロパティは、@code{side-position-interface} を@c
2662 サポートするオブジェクトとそれに最隣接する他のオブジェクト
2663 (一般には音符や譜線) との間のスペースの最小量を制御します。@c
2664 一方、@code{staff-padding} は常に譜の外側に配置される@c
2665 レイアウト オブジェクトにのみ適用されます --
2666 これは譜の外側に配置されるオブジェクトと譜の間に挿入されるべき@c
2667 スペースの最小量を制御します。@c
2668 @code{staff-paddin} は譜ではなく音符との相対関係で配置されるオブジェクトには@c
2669 影響を与えないということに注意してください。@c
2670 そのようなオブジェクトに対して @code{staff-padding} のオーバライドを@c
2671 行ったとしてもエラーは起きないかもしれませんが、無視されます。
2672
2673 あなたが再配置しようとしているオブジェクトに対して求められる
2674 @code{padding} プロパティはどれなのかを見つけるには、内部リファレンスに@c
2675 戻ってそのオブジェクトのプロパティを調べる必要があります。@c
2676 @code{padding} プロパティはあなたが再配置しようとしているオブジェクトの中には@c
2677 無いかもしれないということに注意してください。@c
2678 その場合は、そのオブジェクトに関係があるオブジェクトを調べてください。
2679
2680 すべての @code{padding} 値は譜スペースで測られます。@c
2681 たいていのオブジェクトでは、この値はデフォルトで約 1.0 か@c
2682 それ以下にセットされています (それぞれのオブジェクトで値はさまざまです)。@c
2683 間隔を大きく (あるいは小さく) する必要がある場合、@c
2684 その値はオーバライドされるかもしれません。
2685
2686 @item
2687 @code{self-alignment-X}
2688
2689 @cindex self-alignment-X property (self-alignment-X プロパティ)
2690
2691 このプロパティを使うことで、親オブジェクトの参照ポイントに従って、@c
2692 オブジェクトを左、右、中央に揃えることができます。@c
2693 このプロパティは @code{self-alignment-interface} をサポートする@c
2694 オブジェクトすべてに対して使用することができます。@c
2695 一般に、テキストを保持するオブジェクトです。@c
2696 値は @code{Left}, @code{RIGHT}, @code{CENTER} です。@c
2697 代替手段として、@w{@code{-1}} から @code{+1} までの数値を@c
2698 指定することもできます。@c
2699 @code{-1} は左揃えであり、@code{+1} は右揃え、@c
2700 その間の数値は左揃えから右揃えへのテキストを移動させます
2701 (訳者: @code{-0.5} であれば、左揃えと中央揃えの中間ということ)。@c
2702 @code{1} よりも大きな数値を指定することでテキストをさらに左へ、@c
2703 @w{@code{-1}} よりも小さな数値を指定することでテキストを@c
2704 さらに右へ移動させることができます。@c
2705 この値を @code{1} 増減することによる移動量はそのテキストの長さの半分です。
2706
2707 @item
2708 @code{extra-spacing-width}
2709
2710 @cindex extra-spacing-width property (extra-spacing-width プロパティ)
2711
2712 このプロパティは @code{item-interface} をサポートするオブジェクトすべてで@c
2713 利用可能です。@c
2714 このプロパティは 2 つの数値をとり、最初の数値はオブジェクトの左側に@c
2715 余白を追加し、2 番目の数値はオブジェクトの右側に余白を追加します。@c
2716 負値はオブジェクトの端を左に移動させ、正値は右に移動させます。@c
2717 そのため、オブジェクトを広くするには、最初の数値を負値にして、@c
2718 2 番目の数値を正値にする必要があります。@c
2719 すべてのオブジェクトが両方の数値を遵守するわけではないということに@c
2720 注意してください。@c
2721 例えば、@code{Accidental} オブジェクトは最初の数値 (左端) にしか@c
2722 注意を払いません。
2723
2724 @item
2725 @code{staff-position}
2726
2727 @cindex staff-position property (staff-position プロパティ)
2728
2729 @code{staff-position} は @code{staff-symbol-referencer-interface} の@c
2730 プロパティです。@c
2731 これは、譜との相対関係で配置されるオブジェクトによってサポートされます。@c
2732 このプロパティはオブジェクトの垂直方向の位置を、譜の中央にある譜線から@c
2733 譜スペースの半分を単位として、指定します。@c
2734 このプロパティは複数小節に亘る休符、タイ、異なるボイスの中にある音符といった@c
2735 レイアウト オブジェクトの衝突を解決する場合に有用です。
2736
2737 @item
2738 @code{force-hshift}
2739
2740 @cindex force-hshift property (force-hshift プロパティ)
2741
2742 和音の中で近接して配置された音符や異なるボイスの中にあって同時に起こる音符は、@c
2743 符頭の衝突を避けるために、2 つ (場合によってはそれ以上) の列に@c
2744 配置されます。@c
2745 この列は音符列と呼ばれ、その列に音符をレイアウトするために @code{NoteColumn}
2746 と呼ばれるオブジェクトが作成されます。
2747
2748 @code{force-hshift} プロパティは @code{NoteColumn} のプロパティです
2749 (実際には @code{note-column-interface} のプロパティです)。@c
2750 このプロパティを変更することで音符列を、音符列特有の単位 --
2751 すなわち、最初のボイスの中にある音符の符頭の幅 -- に従って、@c
2752 移動させることができます。@c
2753 このプロパティは、通常の
2754 @code{\shiftOn} コマンド
2755 (@ref{ボイスを明示的にインスタンス化する} を参照してください)
2756 が音符の衝突を解決できないような複雑な状況で使用されるべきです。@c
2757 この目的のためには、@code{extra-offset} プロパティを用いるよりも
2758 @code{force-hshift} プロパティを用いる方が好ましいです。@c
2759 なぜなら、譜スペースを単位とした距離を算出する必要が無く、@c
2760 @code{NoteColumn} の内外に音符を移動させることは符頭のマージといった@c
2761 他のアクションに影響を与えるからです。
2762
2763 @end itemize
2764
2765 @item
2766 最後に、他の方法がすべて失敗した場合、オブジェクトを手動で譜の中央線からの@c
2767 垂直方向の相対位置に従って、あるいは新たに設定した位置との距離に従って、@c
2768 再配置することになるかもしれません。@c
2769 この方法の欠点は、再配置のための正確な値を算出する必要がある --
2770 しばしば、その算出はそれぞれのオブジェクトに対して個々に、トライ&エラーで@c
2771 行われます -- 必要があるということ、さらに、この方法による移動は
2772 LilyPond が他のオブジェクトをすべて配置した後に行われるため、@c
2773 ユーザはその結果として起こるかもしれない衝突を@c
2774 すべて回避する責任があるということです。@c
2775 しかし、この方法の最大の問題点は、音楽が後で変更された場合に、@c
2776 再配置用の値を再び算出する必要があるということです。@c
2777 このタイプの手動再配置のために使用されるプロパティは以下のようなものです:
2778
2779 @table @code
2780 @item extra-offset
2781
2782 @cindex extra-offset property (extra-offset プロパティ)
2783
2784 このプロパティは @code{grob-interface} をサポートするレイアウト オブジェクトの@c
2785 いずれかに適用されます。@c
2786 このプロパティはペアになった数値をとり、それぞれの数値は@c
2787 水平方向と垂直方向の移動を指定します。@c
2788 負値はオブジェクトを左または下へ移動させます。@c
2789 単位は譜スペースです。@c
2790 この移動はオブジェクトの譜刻が完了した後に行われるため、あるオブジェクトを@c
2791 任意の位置へ、他のオブジェクトに影響を与えることなく、再配置することができます。
2792
2793 @item positions
2794
2795 @cindex positions property (positions プロパティ)
2796
2797 このプロパティは、連桁、スラー、連符の傾きと高さを手動で調節するために@c
2798 最も有用なプロパティです。@c
2799 このプロパティはペアになった数値をとり、それぞれの数値は連桁、@c
2800 スラーなどの左端と右端の位置を譜の中央線との距離で指定します。@c
2801 単位は譜スペースです。@c
2802 けれども、スラーとフレージング スラーを任意の値で@c
2803 再配置することはできないということに注意してください。@c
2804 LilyPond はまずスラーが取り得る位置のリストを生成し、それからデフォルトでは
2805 @qq{最良に見える} スラーを探します。@c
2806 @code{positions} がオーバライドされていた場合、@c
2807 そのリストの中からリクエストされた位置に最も近いスラーが選択されます。
2808 @end table
2809
2810 @end enumerate
2811
2812 あるオブジェクトがこれらのプロパティすべてを持っているわけではありません。@c
2813 内部リファレンスに行き、そのオブジェクトではどのプロパティが@c
2814 利用可能なのかを調べる必要があります。
2815
2816 ここで、衝突に関係しそうなオブジェクトをリスト アップします。@c
2817 内部リファレンスを調べるためのオブジェクト名を付けるので、@c
2818 それらのオブジェクトを移動させるのに使うプロパティを見つけ出すのに@c
2819 使ってください。
2820
2821 @multitable @columnfractions .5 .5
2822 @headitem オブジェクト タイプ                    @tab オブジェクト名
2823 @item アーティキュレーション (Articulation)      @tab @code{Script}
2824 @item 連桁 (Beam)                                @tab @code{Beam}
2825 @item 強弱記号 (Dynamic) (垂直方向)              @tab @code{DynamicLineSpanner}
2826 @item 強弱記号 (Dynamic) (水平方向)              @tab @code{DynamicText}
2827 @item 運指法記号 (Fingering)                     @tab @code{Fingering}
2828 @item リハーサル / テキスト記号 (Rehearsal / Text mark) @tab @code{RehearsalMark}
2829 @item スラー (Slur)                                @tab @code{Slur}
2830 @item テキスト -- つまり、@code{^"text"} (Text)  @tab @code{TextScript}
2831 @item タイ (Tie)                                 @tab @code{Tie}
2832 @item 連符 (Tuplet)                              @tab @code{TupletBracket}
2833 @end multitable
2834
2835
2836 @node 表記の重なりを修正する
2837 @subsection 表記の重なりを修正する
2838 @translationof Fixing overlapping notation
2839
2840 今度は、前のセクションで扱ったプロパティが記譜の重なりを解決する手助けを@c
2841 どのようにできるかを見ていきましょう。
2842
2843 @menu
2844 * padding プロパティ::
2845 * right-padding プロパティ::
2846 * staff-padding プロパティ::
2847 * self-alignment-X プロパティ::
2848 * staff-position プロパティ::
2849 * extra-offset プロパティ::
2850 * positions プロパティ::
2851 * force-hshift プロパティ::
2852 @end menu
2853
2854
2855 @node padding プロパティ
2856 @unnumberedsubsubsec @code{padding} プロパティ
2857 @translationof The padding property
2858
2859 @cindex padding (パディング)
2860 @cindex fixing overlapping notation (記譜要素の重なりを修正する)
2861 @cindex overlapping notation (重なり合っている記譜要素)
2862
2863 @code{padding} プロパティに値をセットすることによって、音符とその上または下に@c
2864 譜刻される記号との間の距離を増減することができます。
2865
2866 @cindex Script, example of overriding (Script をオーバライドする例)
2867 @cindex padding property, example (padding プロパティの例)
2868
2869 @lilypond[quote,fragment,verbatim]
2870 c'2\fermata
2871 \override Script.padding = #3
2872 b2\fermata
2873 @end lilypond
2874
2875 @cindex MetronomeMark, example of overriding (MetronomeMark をオーバライドする例)
2876 @cindex padding property, example (padding プロパティの例)
2877
2878 @c KEEP LY
2879 @lilypond[quote,fragment,verbatim]
2880 % これは機能しません。この下を見てください
2881 \override MetronomeMark.padding = #3
2882 \tempo 4 = 120
2883 c'1 |
2884 % これは機能します
2885 \override Score.MetronomeMark.padding = #3
2886 \tempo 4 = 80
2887 d'1 |
2888 @end lilypond
2889
2890 2 番目の例では、ある特定のオブジェクトを扱うのはどのコンテキストなのかを@c
2891 突き止めることが重要であるということに注意してください。@c
2892 @code{MetronomeMark} オブジェクトは @code{Score} コンテキストの中で@c
2893 処理されるため、@code{Voice} コンテキストの中でのプロパティの変更は@c
2894 無視されます。@c
2895 更に詳細を知りたければ、@ruser{Modifying properties} を参照してください。
2896
2897 @code{outside-staff-priority} に従って配置されているオブジェクトの並びの中の@c
2898 あるオブジェクトの @code{padding} プロパティが増やされた場合、@c
2899 そのオブジェクトとそれよりも外側にあるすべてオブジェクトが移動させられます。
2900
2901
2902 @node right-padding プロパティ
2903 @unnumberedsubsubsec @code{right-padding} プロパティ
2904 @translationof The right-padding property
2905
2906 @cindex right-padding property (right-padding プロパティ)
2907
2908 @code{right-padding} プロパティは臨時記号とそれが適用される音符との間の@c
2909 スペースに影響を与えます。@c
2910 このプロパティを変更することは必ずしも必要ではありませんが、@c
2911 微分音の音楽で使われる特殊な臨時記号の図柄や図柄の組み合わせに対して@c
2912 デフォルトのスペースが適切ではない場合に必要となるかもしれません。@c
2913 臨時記号のステンシルを望みのシンボルを保持するマークアップにオーバライド@c
2914 する必要があります:
2915
2916 @cindex Accidental, example of overriding (Accidental をオーバライドする例)
2917 @cindex text property, example (text プロパティの例)
2918 @cindex stencil property, example (stencil プロパティの例)
2919 @cindex AccidentalPlacement, example of overriding (AccidentalPlacement をオーバライドする例)
2920 @cindex right-padding property, example (right-padding プロパティの例)
2921
2922 @c KEEP LY
2923 @lilypond[quote,ragged-right,verbatim]
2924 sesquisharp = \markup { \sesquisharp }
2925 \relative {
2926   c''4
2927   % これは 1.5 倍シャープを譜刻しますが、スペースが小さすぎます
2928   \once \override Accidental.stencil = #ly:text-interface::print
2929   \once \override Accidental.text = #sesquisharp
2930   cis4 c
2931   % これはスペースを改善しています
2932   \once \override Score.AccidentalPlacement.right-padding = #0.6
2933   \once \override Accidental.stencil = #ly:text-interface::print
2934   \once \override Accidental.text = #sesquisharp
2935   cis4 |
2936 }
2937 @end lilypond
2938
2939 @noindent
2940 これは必然的に臨時記号のステンシルをオーバライドすることになります。@c
2941 このオーバライドについては後々までカバーされません。@c
2942 ステンシル タイプは手続きでなければならず、ここでは @code{Accidental} の
2943 @code{text} プロパティの内容
2944 -- 内容には 1.5 倍シャープがセットされています
2945 -- を譜刻するように変更されています。@c
2946 それらの記号は @code{right-padding} のオーバライドによって@c
2947 符頭からさらに遠くへ移動させられています。
2948
2949 @noindent
2950
2951
2952 @node staff-padding プロパティ
2953 @unnumberedsubsubsec @code{staff-padding} プロパティ
2954 @translationof The staff-padding property
2955
2956 @cindex aligning objects on a baseline (オブジェクトをベースラインに揃える)
2957 @cindex objects, aligning on a baseline (オブジェクトをベースラインに揃える)
2958
2959 @code{staff-padding} を使うことで、強弱記号などのオブジェクトを、@c
2960 それらが取り付けられる音符の位置に依存した高さではなく、@c
2961 譜上のある固定した高さのベースラインに揃えることができます。@c
2962 このプロパティは @code{DynamicText} のプロパティではなく、@c
2963 @code{DynamicSpanner} のプロパティです。@c
2964 この理由は、このベースラインは延長スパナを含む @strong{すべて} の強弱記号に@c
2965 等しく適用されるべきだからです。@c
2966 そのため、これは以前のセクションでの例の中にある強弱記号を@c
2967 揃えるための方法になります:
2968
2969 @cindex DynamicText, example of overriding (DynamicText をオーバライドする例)
2970 @cindex extra-spacing-width property, example (extra-spacing-width プロパティの例)
2971 @cindex DynamicLineSpanner, example of overriding (DynamicLineSpanner をオーバライドする例)
2972 @cindex staff-padding property, example (staff-padding プロパティの例)
2973
2974 @c KEEP LY
2975 @lilypond[quote,fragment,ragged-right,verbatim]
2976 \dynamicUp
2977 % 幅を 1 単位広げます
2978 \override DynamicText.extra-spacing-width = #'(-0.5 . 0.5)
2979 % 強弱記号を譜から 2 単位上のベース ラインに揃えます
2980 \override DynamicLineSpanner.staff-padding = #2
2981 \relative { a'4\f b\mf c\mp b\p }
2982 @end lilypond
2983
2984
2985 @node self-alignment-X プロパティ
2986 @unnumberedsubsubsec @code{self-alignment-X} プロパティ
2987 @translationof The self-alignment-X property
2988
2989 以下の例はこのプロパティが、運指法記号オブジェクトの右端を親の音符の@c
2990 参照ポイントに揃えることによって、@c
2991 弦楽器の運指法記号オブジェクトと音符の符幹とのこのプロパティが衝突を@c
2992 解決している様子を示しています:
2993
2994 @cindex StringNumber, example of overriding (StringNumber をオーバライドする例)
2995 @cindex self-alignment-X property, example (self-alignment-X プロパティの例)
2996
2997 @lilypond[quote,fragment,ragged-right,verbatim]
2998 \voiceOne
2999 <a''\2>
3000 \once \override StringNumber.self-alignment-X = #RIGHT
3001 <a''\2>
3002 @end lilypond
3003
3004
3005 @node staff-position プロパティ
3006 @unnumberedsubsubsec @code{staff-position} プロパティ
3007 @translationof The staff-position property
3008
3009 @cindex object collision within a staff (譜内部でのオブジェクトの衝突)
3010
3011 あるボイスの中にある複数小節に亘る休符は他のボイスの中にある音符と@c
3012 衝突する可能性があります。@c
3013 このような休符は小節線と小節線の間の中央に譜刻されるため、@c
3014 LilyPond がそれと衝突するかもしれない音符を突き止めるのは非常に困難です。@c
3015 なぜなら、現在の音符間それに音符-休符間の衝突対応は、@c
3016 同時に起こる音符と休符に対してのみ行われるからです。@c
3017 以下に、このタイプの衝突の例を挙げます:
3018
3019 @lilypond[quote,verbatim,ragged-right]
3020 << \relative { c'4 c c c } \\ { R1 } >>
3021 @end lilypond
3022
3023 ここでの最良の解決策は、複数小節に亘る休符を下へ移動させることです。@c
3024 なぜなら、その休符はボイス 2 の中にあるからです。@c
3025 @code{\voiceTwo} (すなわち、@code{<<@{...@} \\ @{...@}>>} 構造の
3026 2 番目のボイス) のデフォルト状態では、@c
3027 @code{MultiMeasureRest} の @code{staff-position} は @code{-4} に@c
3028 セットされています。@c
3029 そのため、そのプロパティを、例えば半譜スペース 4 つ分押し下げるには、@c
3030 @w{@code{-8}} に変更する必要があります。
3031
3032 @cindex MultiMeasureRest, example of overriding (MultiMeasureRest をオーバライドする例)
3033 @cindex staff-position property, example (staff-position プロパティの例)
3034
3035 @lilypond[quote,verbatim,ragged-right]
3036 <<
3037   \relative { c'4 c c c }
3038   \\
3039   \override MultiMeasureRest.staff-position = #-8
3040   { R1 }
3041 >>
3042 @end lilypond
3043
3044 これは、例えば @code{extra-offset} を使うよりも良い解決方法です。@c
3045 なぜなら、その休符の上に加線が自動的に挿入されるからです。
3046
3047
3048 @node extra-offset プロパティ
3049 @unnumberedsubsubsec @code{extra-offset} プロパティ
3050 @translationof The extra-offset property
3051
3052 @cindex positioning objects (オブジェクトの位置を決定する)
3053 @cindex positioning grobs (グラフィカル オブジェクトの位置を決定する)
3054 @cindex objects, positioning (オブジェクトの位置を決定する)
3055 @cindex grobs, positioning (グラフィカル オブジェクトの位置を決定する)
3056
3057 @code{extra-offset} プロパティは、あるオブジェクトの水平方向と垂直方向の@c
3058 配置を完全に制御します。
3059
3060 以下の例では、2 番目の運指法記号が少し左に、そして 1.8 譜スペース下に@c
3061 移動させられています:
3062
3063 @cindex Fingering, example of overriding (Fingering をオーバライドする例)
3064 @cindex extra-offset property, example (extra-offset プロパティの例)
3065
3066 @lilypond[quote,fragment,relative=1,verbatim]
3067 \stemUp
3068 f4-5
3069 \once \override Fingering.extra-offset = #'(-0.3 . -1.8)
3070 f4-5
3071 @end lilypond
3072
3073
3074 @node positions プロパティ
3075 @unnumberedsubsubsec @code{positions} プロパティ
3076 @translationof The positions property
3077
3078 @cindex controlling tuplets, slurs, phrasing slurs, and beams manually (連符、スラー、フレージング スラーそれに連桁を手動で制御する)
3079 @cindex manually controlling tuplets, slurs, phrasing slurs, and beams (連符、スラー、フレージング スラーそれに連桁を手動で制御する)
3080 @cindex tuplet beams, controlling manually (連譜の連桁を手動で制御する)
3081 @cindex slurs, controlling manually (スラーを手動で制御する)
3082 @cindex phrasing slurs, controlling manually (フレージング スラーを手動で制御する)
3083 @cindex beams, controlling manually (連桁を手動で制御する)
3084
3085 @code{positions} プロパティは連符、スラー、フレージング スラー、@c
3086 連桁の位置を手動で制御することができ、それにより傾きも制御できます。
3087
3088 ここで、フレージング スラーとスラーが衝突している例を示します:
3089
3090 @lilypond[quote,verbatim,ragged-right]
3091 \relative { a'8 \( ( a'16 ) a \) }
3092 @end lilypond
3093
3094 @cindex PhrasingSlur, example of overriding (PhrasingSlur をオーバライドする例)
3095 @cindex positions property, example (positions プロパティの例)
3096
3097 @noindent
3098 衝突を解決するために、フレージング スラーの両端を上に移動させます。@c
3099 左端を譜中央線よりも 2.5 譜スペース上に設定し、右端を 4.5 譜スペース上に@c
3100 設定すると、LilyPond は候補の中から両端の位置が最も設定に近いフレージング
3101 スラーを選択します:
3102
3103 @lilypond[quote,verbatim,fragment,ragged-right]
3104 \once \override PhrasingSlur.positions = #'(2.5 . 4.5)
3105 a'8 \( ( a''16 ) a'' \)
3106 @end lilypond
3107
3108 これで改善されました。@c
3109 しかしながら、スラーの右端を少し下げてみてはどうでしょうか?@c
3110 そうしようとした場合、この方法では実行できないことがわかります。@c
3111 すでに表示されているスラーよりも右端が下がっている候補は無く、@c
3112 そのような場合には @code{positions} は効果を持たないからです。@c
3113 しかしながら、必要があればタイ、スラー、それにフレージング スラーの@c
3114 位置と形状を非常に正確に設定することが @emph{できます}。@c
3115 正確な設定を行う方法は @ruser{Modifying ties and slurs} で学習してください。
3116
3117 もう 1 つ例を示します。@c
3118 連桁がタイと衝突しています:
3119
3120 @lilypond[quote,verbatim,fragment,ragged-right]
3121 {
3122   \time 4/2
3123   <<
3124     { c'1 ~ 2. e'8 f' }
3125     \\
3126     { e''8 e'' e'' e''  e'' e'' e'' e''  f''2 g'' }
3127   >>
3128   <<
3129     { c'1 ~ 2. e'8 f' }
3130     \\
3131     { e''8 e'' e'' e''  e'' e'' e'' e''  f''2 g'' }
3132  >>
3133 }
3134 @end lilypond
3135
3136 @noindent
3137 これは、譜の中央線から 1.81 譜スペース上の位置にある連桁の両端を、例えば、1
3138 に手動で上げることによって解決することができます:
3139
3140 @cindex Beam, example of overriding (Beam をオーバライドする例)
3141 @cindex positions property, example (positions プロパティの例)
3142
3143 @lilypond[quote,verbatim,fragment,ragged-right]
3144 {
3145   \time 4/2
3146   <<
3147     { c'1 ~ 2. e'8 f' }
3148     \\
3149     {
3150       \override Beam.positions = #'(-1 . -1)
3151       e''8 e'' e'' e''  e'' e'' e'' e''  f''2 g''
3152     }
3153   >>
3154   <<
3155     { c'1 ~ 2. e'8 f' }
3156     \\
3157     { e''8 e'' e'' e''  e'' e'' e'' e''  f''2 g'' }
3158   >>
3159 }
3160 @end lilypond
3161
3162 @noindent
3163 オーバライドの効果は継続して第 2 小節のボイス 1 の 8 分音符にも@c
3164 適用されていますが、@c
3165 ボイス 2 の連桁にはまったく適用されていないということに注意してください。
3166
3167 @node force-hshift プロパティ
3168 @unnumberedsubsubsec @code{force-hshift} プロパティ
3169 @translationof The force-hshift property
3170
3171 今や、@ref{私はボイスを聴いている} の最後で挙げた Chopin の例に@c
3172 どのように修正を加えるべきかを知っています。@c
3173 この例は以下のような状態でした:
3174
3175 @lilypond[quote,verbatim,fragment,ragged-right]
3176 \new Staff \relative {
3177   \key aes \major
3178   <<
3179     { c''2 aes4. bes8 }
3180     \\
3181     { <ees, c>2 des }
3182     \\
3183     \\
3184     { aes'2 f4 fes }
3185   >> |
3186   <c ees aes c>1 |
3187 }
3188 @end lilypond
3189
3190 @noindent
3191 最初の和音の内声の音 (つまり、4 番目のボイスにある A-フラット) を上の音符の@c
3192 音符列からずらす必要はありません。@c
3193 これを修正するには、下の音符の @code{force-hshift} --
3194 これは @code{NoteColumn} のプロパティです -- を 0 にセットします。@c
3195
3196 2 番目の和音では、F を A-フラットに揃えて、符幹の衝突を避けるために@c
3197 最下段の音符を少し右に移動させるべきでしょう。@c
3198 そうするには、D-フラットの @code{NoteColumn} の @code{force-hshift}
3199 を設定して譜スペースの半分だけ右にずらします。
3200 2 番目の和音の下の方の音符は、上の方の音符のすぐ右に置くのが最良です。@c
3201 そうするには、この音符の @code{force-hshift} を 0.5 にセットします --
3202 つまり、上の方の音符の音符列から符頭の幅の半分だけ右にずらします。
3203
3204 ここで、最終結果を挙げます:
3205
3206 @cindex NoteColumn, example of overriding (NoteColumn をオーバライドする例)
3207 @cindex force-hshift property, example (force-hshift プロパティの例)
3208
3209 @lilypond[quote,verbatim,fragment,ragged-right]
3210 \new Staff \relative {
3211   \key aes \major
3212   <<
3213     { c''2 aes4. bes8 }
3214     \\
3215     {
3216       <ees, c>2
3217       \once \override NoteColumn.force-hshift = #0.5
3218       des2
3219     }
3220     \\
3221     \\
3222     {
3223       \override NoteColumn.force-hshift = #0
3224       aes'2 f4 fes
3225     }
3226   >> |
3227   <c ees aes c>1 |
3228 }
3229 @end lilypond
3230
3231
3232 @node 実際の音楽からの例
3233 @subsection 実際の音楽からの例
3234 @translationof Real music example
3235
3236 調整についてのセクションを、望みの出力を作り出すためにいくつかの調整を@c
3237 必要とするトリッキーな例を処理するときにとられるステップを示すことで@c
3238 締めくくります。@c
3239 この例は、記譜法についての普通ではない問題を解決するための記譜法リファレンスの@c
3240 使い方を示すために慎重に選ばれたものです。@c
3241 この例は一般的な譜刻プロセスを代表するものではありません。@c
3242 ですから、この例の複雑さでやる気を失わないでください!@c
3243 幸いなことに、このように複雑な問題は非常に稀です!
3244
3245 この例は Chopin の Première Ballade, Op. 23 の第 6 - 9 小節からとりました。@c
3246 序盤の Lento から Moderato へと移調する部分です。@c
3247 まず最初に望んでいる出力挙げますが、例があまりにも複雑になり過ぎないように@c
3248 強弱記号、運指法記号、ペダル記号は省きました。
3249
3250 @c The following should appear as music without code
3251 @c This example should not be indexed
3252 @c line-width ensures no break
3253 @c KEEP LY
3254 @lilypond[quote,ragged-right,line-width=6\in]
3255 rhMusic = \relative {
3256   \new Voice {
3257     r2 c''4.\( g8 |
3258     \once \override Tie.staff-position = #3.5
3259     bes1~ |
3260     \bar "||"
3261     \time 6/4
3262     \mergeDifferentlyHeadedOn
3263     \mergeDifferentlyDottedOn
3264     bes2.^\markup { \bold "Moderato" } r8
3265     <<
3266       { c,8 d fis bes a }
3267       \new Voice {
3268         \voiceTwo
3269         c,8~
3270         % マージされる音符の右にある c2 を再配置します
3271         \once \override NoteColumn.force-hshift = #1.0
3272         % c2 をメインの音符列から外したため、
3273         % マージが機能します
3274         \shiftOnn
3275         c2
3276       }
3277       \new Voice {
3278         \voiceThree
3279         s8
3280         % マージさせるために d2 の符幹を下向きにする必要があります
3281         \stemDown
3282         % d2 の符幹を不可視にします
3283         \tweak Stem.transparent ##t
3284         d2
3285       }
3286       \new Voice {
3287         \voiceFour
3288         s4 fis4.
3289       }
3290     >> |
3291     \mergeDifferentlyHeadedOff
3292     \mergeDifferentlyDottedOff
3293     g2.\)
3294   }
3295 }
3296
3297 lhMusic = \relative {
3298   r2 <c' g ees>2( |
3299   <d g, d>1)\arpeggio |
3300   r2. d,,4 r4 r |
3301   r4
3302 }
3303
3304 \score {
3305   \new PianoStaff <<
3306     \new Staff = "RH"  <<
3307       \key g \minor
3308       \rhMusic
3309     >>
3310     \new Staff = "LH" <<
3311       \key g \minor
3312       \clef "bass"
3313       \lhMusic
3314     >>
3315   >>
3316 }
3317 @end lilypond
3318
3319 まず、第 3 小節の右手パートには 4 つのボイスが必要であることに注目します。@c
3320 それぞれのボイスは、連桁でつながれた 5 つの 8 分音符、タイで結ばれた C、@c
3321 半音符の D (これは 8 分音符の D とマージされています)、@c
3322 付点 4 分音符の F シャープ (これも同じピッチの 8 分音符とマージされています)
3323 です。@c
3324 他の部分はすべて単一のボイスなので、最も容易な方法は
3325 4 つのボイスを必要になったときに一時的に導入する方法です。@c
3326 一時的に多声にする方法を忘れてしまったのならば、@c
3327 @ref{私はボイスを聴いている} と @ref{ボイスを明示的にインスタンス化する}
3328 を参照してください。@
3329 ここでは、多声パッセージに明示的にインスタンス化されたボイスを使うことにします。@c
3330 なぜなら、すべてのボイスが明示的にインスタンス化されている方が、@c
3331 LilyPond はうまく衝突を回避できるからです。
3332
3333 音符を 2 つの変数として入力し、@c
3334 譜構造を Score ブロックの中でセットアップすることから始めて、@c
3335 それで LilyPond がデフォルトでどのような出力を作り出すのか見てみましょう:
3336
3337 @c line-width ensures no break
3338 @c KEEP LY
3339 @lilypond[quote,verbatim,ragged-right,line-width=6\in]
3340 rhMusic = \relative {
3341   \new Voice {
3342     r2 c''4. g8 |
3343     bes1~ |
3344     \time 6/4
3345     bes2. r8
3346     % 4 つのボイスの多声セクションの開始
3347     <<
3348       { c,8 d fis bes a }  % メイン ボイスの続き
3349       \new Voice {
3350         \voiceTwo
3351         c,8~ 2
3352       }
3353       \new Voice {
3354         \voiceThree
3355         s8 d2
3356       }
3357       \new Voice {
3358         \voiceFour
3359         s4 fis4.
3360       }
3361     >> |
3362     g2.  % メイン ボイスの続き
3363   }
3364 }
3365
3366 lhMusic = \relative {
3367   r2 <c' g ees>2 |
3368   <d g, d>1 |
3369   r2. d,,4 r4 r |
3370   r4
3371 }
3372
3373 \score {
3374   \new PianoStaff <<
3375     \new Staff = "RH"  <<
3376       \key g \minor
3377       \rhMusic
3378     >>
3379     \new Staff = "LH" <<
3380       \key g \minor
3381       \clef "bass"
3382       \lhMusic
3383     >>
3384   >>
3385 }
3386 @end lilypond
3387
3388 すべての音符は間違っていません。@c
3389 しかしながら、見た目は満足とは程遠いものです。@c
3390 タイは移調する拍子記号と衝突していて、第 3 小節の連桁の付け方は@c
3391 間違っていて、音符はマージされておらず、いくつかの記譜要素は欠けています。@c
3392 簡単なものから片付けていきましょう。@c
3393 連桁の付け方は手動で連桁を挿入することで修正でき、左手パートのスラーと@c
3394 右手パートのフレージング スラーは簡単に追加できます
3395 -- なぜなら、これらはすべてチュートリアルでカバーされているからです。@c
3396 これらの修正を加えると、以下のようになります:
3397
3398 @c line-width ensures no break
3399 @c KEEP LY
3400 @lilypond[quote,verbatim,ragged-right,line-width=6\in]
3401 rhMusic = \relative {
3402   \new Voice {
3403     r2 c''4.\( g8 |
3404     bes1~ |
3405     \time 6/4
3406     bes2. r8
3407     % 4 つのボイスの多声セクションの開始
3408     <<
3409       { c,8 d fis bes a }  % メイン ボイスの続き
3410       \new Voice {
3411         \voiceTwo
3412         c,8~ 2
3413       }
3414       \new Voice {
3415         \voiceThree
3416         s8 d2
3417       }
3418       \new Voice {
3419         \voiceFour
3420         s4 fis4.
3421       }
3422     >> |
3423     g2.\)  % メイン ボイスの続き
3424   }
3425 }
3426
3427 lhMusic = \relative {
3428   r2 <c' g ees>2( |
3429   <d g, d>1) |
3430   r2. d,,4 r4 r |
3431   r4
3432 }
3433
3434 \score {
3435   \new PianoStaff <<
3436     \new Staff = "RH"  <<
3437       \key g \minor
3438       \rhMusic
3439     >>
3440     \new Staff = "LH" <<
3441       \key g \minor
3442       \clef "bass"
3443       \lhMusic
3444     >>
3445   >>
3446 }
3447 @end lilypond
3448
3449 第 1 小節は正しくなりました。@c
3450 第 2 小節にはアルペジオが含まれていて、2 重の小節線で終わります。@c
3451 この学習マニュアルではこれらのことは言及されてこなかったのに、@c
3452 どうやってやればいいのでしょうか?@c
3453 ここで、記譜法リファレンスに移行する必要があります。@c
3454 索引で @q{arpeggio} と @q{bar line} を探せばすぐに、アルペジオは
3455 @code{\arpeggio} を和音の後に付け加えることによって作り出され、@c
3456 2 重小節線は @code{\bar "||"} コマンドによって作り出されることが@c
3457 わかります。@c
3458 それは簡単にできます。@c
3459 次に、タイと拍子記号の衝突を修正する必要があります。@c
3460 これはタイを上に移動させる方法が最善です。@c
3461 オブジェクトの移動については以前に @ref{オブジェクトを移動させる} でカバーしました。@c
3462 そこでは、譜との相対位置で配置されるオブジェクトは、@c
3463 そのオブジェクトの @code{staff-position} プロパティを@c
3464 オーバライドすることによって、移動させることができると述べられています。@c
3465 このプロパティは譜スペースの半分を単位として、譜の中央線からの距離で@c
3466 指定されます。@c
3467 ですから、以下の以下のオーバライドをタイで結ばれる最初の音符の前に置けば、@c
3468 タイは中央線から 3.5 半譜スペースだけ上の位置に移動させられます:
3469
3470 @code{\once \override Tie.staff-position = #3.5}
3471
3472 これで第 2 小節の修正も完了で、以下のようになります:
3473
3474 @c line-width ensures no break
3475 @c KEEP LY
3476 @lilypond[quote,verbatim,ragged-right,line-width=6\in]
3477 rhMusic = \relative {
3478   \new Voice {
3479     r2 c''4.\( g8 |
3480     \once \override Tie.staff-position = #3.5
3481     bes1~ |
3482     \bar "||"
3483     \time 6/4
3484     bes2. r8
3485     % 4 つのボイスの多声セクションの開始
3486     <<
3487       { c,8 d fis bes a }  % メイン ボイスの続き
3488       \new Voice {
3489         \voiceTwo
3490         c,8~ 2
3491       }
3492       \new Voice {
3493         \voiceThree
3494         s8 d2
3495       }
3496       \new Voice {
3497         \voiceFour
3498         s4 fis4.
3499       }
3500     >> |
3501     g2.\)  % メイン ボイスの続き
3502   }
3503 }
3504
3505 lhMusic = \relative {
3506   r2 <c' g ees>2( |
3507   <d g, d>1)\arpeggio |
3508   r2. d,,4 r4 r |
3509   r4
3510 }
3511
3512 \score {
3513   \new PianoStaff <<
3514     \new Staff = "RH"  <<
3515       \key g \minor
3516       \rhMusic
3517     >>
3518     \new Staff = "LH" <<
3519       \key g \minor
3520       \clef "bass"
3521       \lhMusic
3522     >>
3523   >>
3524 }
3525 @end lilypond
3526
3527 第 3 小節 -- Moderato セクションの開始部分 -- に取り掛かります。@c
3528 チュートリアルで @code{\markup} コマンドを使ってボールド体のテキストを@c
3529 付け加える方法を示しましたので、@q{Moderato} をボールド体で付け加えることは@c
3530 容易です。@c
3531 しかし、異なるボイスの中にある音符をマージするにはどうするのでしょうか?@c
3532 ここで、助けを求めて記譜法リファレンスに移行する必要があります。@c
3533 記譜法リファレンスで @qq{merge} を探せばすぐに、@c
3534 @ruser{Collision resolution} で符頭や付点の付き方が異なる音符を@c
3535 マージするためのコマンドにたどり着きます。@c
3536 今回の例では、多声部セクションで両方のタイプの音符をマージする
3537 (異なる符頭を持つ音符のマージと、付点の付き方が異なる音符のマージ)
3538 必要があるので、記譜法リファレンスで見つけた情報を使って、以下のコマンド:
3539
3540 @example
3541 \mergeDifferentlyHeadedOn
3542 \mergeDifferentlyDottedOn
3543 @end example
3544
3545 @noindent
3546 を多声部セクションの開始点に置き、以下のコマンド:
3547
3548 @example
3549 \mergeDifferentlyHeadedOff
3550 \mergeDifferentlyDottedOff
3551 @end example
3552
3553 @noindent
3554 をセクションの終了点に置きます。これで、例は以下のようになります:
3555
3556 @c line-width ensures no break
3557 @c KEEP LY
3558 @lilypond[quote,ragged-right,line-width=6\in]
3559 rhMusic = \relative {
3560   \new Voice {
3561     r2 c''4.\( g8 |
3562     \once \override Tie.staff-position = #3.5
3563     bes1~ |
3564     \bar "||"
3565     \time 6/4
3566     bes2.^\markup { \bold "Moderato" } r8
3567     \mergeDifferentlyHeadedOn
3568     \mergeDifferentlyDottedOn
3569     % 4 つのボイスの多声セクションの開始
3570     <<
3571       { c,8 d fis bes a }  % メイン ボイスの続き
3572       \new Voice {
3573         \voiceTwo
3574         c,8~ 2
3575       }
3576       \new Voice {
3577         \voiceThree
3578         s8 d2
3579       }
3580       \new Voice {
3581         \voiceFour
3582         s4 fis4.
3583       }
3584     >> |
3585     \mergeDifferentlyHeadedOff
3586     \mergeDifferentlyDottedOff
3587     g2.\)  % メイン ボイスの続き
3588   }
3589 }
3590
3591 lhMusic = \relative {
3592   r2 <c' g ees>2( |
3593   <d g, d>1)\arpeggio |
3594   r2. d,,4 r4 r |
3595   r4
3596 }
3597
3598 \score {
3599   \new PianoStaff <<
3600     \new Staff = "RH"  <<
3601       \key g \minor
3602       \rhMusic
3603     >>
3604     \new Staff = "LH" <<
3605       \key g \minor
3606       \clef "bass"
3607       \lhMusic
3608     >>
3609   >>
3610 }
3611 @end lilypond
3612
3613 オーバライドは 2 つの F シャープの音符をマージしましたが、@c
3614 2 つの D をマージしませんでした。@c
3615 なぜマージしなかったのでしょうか?@c
3616 その答えは記譜法リファレンスの同じセクションにあります
3617 -- マージされる音符は反対向きの符幹を持っていなくてはならず、@c
3618 同じ音符列に 3 つ目の音符がある場合は 2 つの音符をマージさせることは@c
3619 できません。@c
3620 今回の例では、2 つの D は両方とも上向きの符幹を持っていて、@c
3621 3 つ目の音符 -- C -- が存在します。@c
3622 我々は @code{\stemDown} を用いて符幹の向きを変更する方法を知っていて、@c
3623 記譜法リファレンスも C を移動させる方法について述べています --
3624 @code{\shift} コマンドの 1 つを用いてシフトを行います。@c
3625 しかし、どのシフトを行えばよいのでしょうか?@c
3626 C はシフト off のボイス 2 の中にあり、2 つの D はボイス 1 とボイス 3 --
3627 それぞれ、シフト off とシフト on -- の中にあります。@c
3628 ですから、C が 2 つの D と衝突するのを避けるために、@c
3629 @code{\shiftOnn} を用いて C を更にシフトさせる必要があります。@c
3630 これらの変更を加えると、以下のようになります:
3631
3632 @cindex Tie, example of overriding (Tie をオーバライドする例)
3633 @cindex staff-position property, example (staff-position プロパティの例)
3634
3635 @c line-width ensures no break
3636 @c KEEP LY
3637 @lilypond[quote,verbatim,ragged-right,line-width=6\in]
3638 rhMusic = \relative {
3639   \new Voice {
3640     r2 c''4.\( g8 |
3641     \once \override Tie.staff-position = #3.5
3642     bes1~ |
3643     \bar "||"
3644     \time 6/4
3645     bes2.^\markup { \bold "Moderato" } r8
3646     \mergeDifferentlyHeadedOn
3647     \mergeDifferentlyDottedOn
3648     % 4 つのボイスの多声セクションの開始
3649     <<
3650       { c,8 d fis bes a }  % メイン ボイスの続き
3651       \new Voice {
3652         \voiceTwo
3653         % c2 をメインの音符列から外したため、
3654         % マージが機能します
3655         c,8~ \shiftOnn c2
3656       }
3657       \new Voice {
3658         \voiceThree
3659         % マージさせるために d2 の符幹を下向きにする必要があります
3660         s8 \stemDown d2
3661       }
3662       \new Voice {
3663         \voiceFour
3664         s4 fis4.
3665       }
3666     >> |
3667     \mergeDifferentlyHeadedOff
3668     \mergeDifferentlyDottedOff
3669     g2.\)  % メイン ボイスの続き
3670   }
3671 }
3672
3673 lhMusic = \relative {
3674   r2 <c' g ees>2( |
3675   <d g, d>1)\arpeggio |
3676   r2. d,,4 r4 r |
3677   r4
3678 }
3679
3680 \score {
3681   \new PianoStaff <<
3682     \new Staff = "RH"  <<
3683       \key g \minor
3684       \rhMusic
3685     >>
3686     \new Staff = "LH" <<
3687       \key g \minor
3688       \clef "bass"
3689       \lhMusic
3690     >>
3691   >>
3692 }
3693 @end lilypond
3694
3695 もうちょっとです。@c
3696 残っている問題は 2 つだけです:
3697 マージされた D の下向きの符幹はあるべきではなく、C は D の右側に配置した方が@c
3698 良いということです。@c
3699 以前に行った調整からこれらを行う方法を両方とも知っています:
3700 符幹を透明にして、@code{force-hshift} プロパティを用いて C を移動させます。@c
3701 ここで、最終結果を示します:
3702
3703 @cindex NoteColumn, example of overriding (NoteColumn をオーバライドする例)
3704 @cindex force-hshift property, example (force-hshift プロパティの例)
3705 @cindex Stem, example of overriding (Stem をオーバライドする例))
3706 @cindex transparent property, example (transparent プロパティの例)
3707
3708 @c line-width ensures no break
3709 @c KEEP LY
3710 @lilypond[quote,verbatim,ragged-right,line-width=6\in]
3711 rhMusic = \relative {
3712   \new Voice {
3713     r2 c''4.\( g8 |
3714     \once \override Tie.staff-position = #3.5
3715     bes1~ |
3716     \bar "||"
3717     \time 6/4
3718     bes2.^\markup { \bold "Moderato" } r8
3719     \mergeDifferentlyHeadedOn
3720     \mergeDifferentlyDottedOn
3721     % 4 つのボイスの多声セクションの開始
3722     <<
3723       { c,8 d fis bes a }  % メイン ボイスの続き
3724       \new Voice {
3725         \voiceTwo
3726         c,8~
3727         % マージされる音符の右にある c2 を再配置します
3728         \once \override NoteColumn.force-hshift = #1.0
3729         % c2 をメインの音符列から外したため、マージが機能します
3730         \shiftOnn
3731         c2
3732       }
3733       \new Voice {
3734         \voiceThree
3735         s8
3736         % マージさせるために d2 の符幹を下向きにする必要があります
3737         \stemDown
3738         % d2 の符幹を不可視にします
3739         \tweak Stem.transparent ##t
3740         d2
3741       }
3742       \new Voice {
3743         \voiceFour
3744         s4 fis4.
3745       }
3746     >> |
3747     \mergeDifferentlyHeadedOff
3748     \mergeDifferentlyDottedOff
3749     g2.\)  % メイン ボイスの続き
3750   }
3751 }
3752
3753 lhMusic = \relative {
3754   r2 <c' g ees>2( |
3755   <d g, d>1)\arpeggio |
3756   r2. d,,4 r4 r |
3757   r4
3758 }
3759
3760 \score {
3761   \new PianoStaff <<
3762     \new Staff = "RH"  <<
3763       \key g \minor
3764       \rhMusic
3765     >>
3766     \new Staff = "LH" <<
3767       \key g \minor
3768       \clef "bass"
3769       \lhMusic
3770     >>
3771   >>
3772 }
3773 @end lilypond
3774
3775
3776 @node 更なる調整
3777 @section 更なる調整
3778 @translationof Further tweaking
3779
3780 @menu
3781 * 調整のその他の使用方法::
3782 * 調整のために変数を使用する::
3783 * スタイル シート::
3784 * その他の情報源::
3785 * Scheme を用いた高度な調整::
3786 @end menu
3787
3788 @node 調整のその他の使用方法
3789 @subsection 調整のその他の使用方法
3790 @translationof Other uses for tweaks
3791
3792 @menu
3793 * 異なるボイスの中にある音符をタイで結ぶ::
3794 * MIDI でフェルマータをシミュレートする::
3795 @end menu
3796
3797 @cindex transparent property, use of (transparent プロパティの使用方法)
3798 @cindex objects, making invisible (オブジェクトを不可視にする)
3799 @cindex removing objects (オブジェクトを削除する)
3800 @cindex objects, removing (オブジェクトを削除する)
3801 @cindex hiding objects (オブジェクトを隠す)
3802 @cindex objects, hiding (オブジェクトを隠す)
3803 @cindex invisible objects (不可視のオブジェクト)
3804 @cindex objects, invisible (不可視のオブジェクト)
3805
3806
3807 @node 異なるボイスの中にある音符をタイで結ぶ
3808 @unnumberedsubsubsec 異なるボイスの中にある音符をタイで結ぶ
3809 @translationof Tying notes across voices
3810
3811 @cindex tying notes across voices (異なるボイスの中にある音符をタイで結ぶ)
3812
3813 以下の例は異なるボイスの中にある音符をタイで結ぶ方法を示しています。@c
3814 通常、タイで結べるのは同じボイスの中にある 2 つ音符だけです。@c
3815 2 つのボイスを使い、そのうちの 1 つにタイで結んだ音符を置きます:
3816
3817 @lilypond[quote]
3818 << { b'8~ 8\noBeam } \\ { b'8[ g'] } >>
3819 @end lilypond
3820
3821 @noindent
3822 そして、そのボイスの最初の上向き符幹を消します。@c
3823 これで、タイはボイスをまたがっているように見えます:
3824
3825 @cindex Stem, example of overriding (Stem をオーバライドする例)
3826 @cindex transparent property, example (transparent プロパティの例)
3827
3828 @lilypond[quote,fragment,relative=2,verbatim]
3829 <<
3830   {
3831     \tweak Stem.transparent ##t
3832     b8~ 8\noBeam
3833   }
3834 \\
3835   { b8[ g] }
3836 >>
3837 @end lilypond
3838
3839 符幹は表示されなくなっただけなので、タイの長さが十分ではありません。@c
3840 符幹の @code{length} を @code{8} にセットすることで符幹を伸ばすことができます:
3841
3842 @lilypond[quote,fragment,relative=2,verbatim]
3843 <<
3844   {
3845     \tweak Stem.transparent ##t
3846     \tweak Stem.length #8
3847     b8~ 8\noBeam
3848   }
3849 \\
3850   { b8[ g] }
3851 >>
3852 @end lilypond
3853
3854 @funindex \single
3855 @cindex tweak, generated from override
3856 今度は、グラフィカル オブジェクトの透明性を @emph{オーバライド} する@c
3857 ことで実現します。@c
3858 これまでに説明した短縮形 @code{\hide} を使います。@c
3859 調整と異なり、オーバライドは単一の音楽表記から生成されたプロパティにだけ@c
3860 効果を持ちます。@c
3861 @code{\single} を用いてオーバライドを調整に変換することができので、@c
3862 上記の例を以下のように書き換えることができます:
3863
3864 @lilypond[quote,fragment,relative=2,verbatim]
3865 <<
3866   {
3867     \single \hide Stem
3868     \single \hide Flag
3869     \tweak Stem.length #8
3870     b8~ 8\noBeam
3871   }
3872 \\
3873   { b8[ g] }
3874 >>
3875 @end lilypond
3876
3877 今回のケースでは、@code{\once \hide} との違いははっきりしません。@c
3878 同じ音楽タイミングに複数のオブジェクトが存在する場合
3879 (和音の中にある符頭のように)、この違いは重要になります。@c
3880 そのような場合、@code{\once} はすべてのオブジェクトに影響を与える@c
3881 のに対して、@code{\single} は直後にある音楽表記によって生成された@c
3882 ただ 1 つのオブジェクトだけに影響を与えます。
3883
3884
3885 @node MIDI でフェルマータをシミュレートする
3886 @unnumberedsubsubsec MIDI でフェルマータをシミュレートする
3887 @translationof Simulating a fermata in MIDI
3888
3889 @cindex stencil property, use of (stencil プロパティの使用方法)
3890 @cindex fermata, implementing in MIDI (MIDI でフェルマータ を実装する)
3891
3892 譜外部オブジェクトを出力から削除しようとする場合、そのオブジェクトの
3893 @code{transparent} プロパティではなく @code{stencil} プロパティを@c
3894 オーバライドする方が通常は望ましいです。@c
3895 あるオブジェクトの @code{stencil} プロパティを
3896 @code{#f} にセットすると、@c
3897 そのオブジェクトは出力から完全に削除されます。@c
3898 このことは、削除されたオブジェクトがそのオブジェクトとの相対位置で@c
3899 配置される他のオブジェクトの配置にまったく影響を及ぼさないということを@c
3900 意味します。
3901
3902 例えば、MIDI 出力でフェルマータをシミュレートするためにメトロノーム設定を@c
3903 変更したいとします。@c
3904 その場合、メトロノーム記号を出力に表示させたくありません。@c
3905 そして、それが 2 つのシステム (小節とその中にある表記) 間のスペースと、@c
3906 譜上にある隣接する注釈の位置に影響を与えることを望みません。@c
3907 そのため、そのメトロノーム記号の @code{stencil} プロパティを
3908 @code{#f} にセットする方法が最良です。@c
3909 ここで、2 つの手法の結果を示します:
3910
3911 @cindex MetronomeMark, example of overriding (MetronomeMark をオーバライドする例)
3912 @cindex transparent property, example (transparent プロパティの例)
3913
3914 @lilypond[quote,verbatim,ragged-right]
3915 \score {
3916   \relative {
3917     % Visible tempo marking
3918     \tempo 4=120
3919     a'4 a a
3920     \once \hide Score.MetronomeMark
3921     % Invisible tempo marking to lengthen fermata in MIDI
3922     \tempo 4=80
3923     a4\fermata |
3924     % New tempo for next section
3925     \tempo 4=100
3926     a4 a a a |
3927   }
3928   \layout { }
3929   \midi { }
3930 }
3931 @end lilypond
3932
3933 @cindex MetronomeMark, example of overriding (MetronomeMark をオーバライドする例)
3934 @cindex stencil property, example (stencil プロパティの例)
3935
3936 @lilypond[quote,verbatim,ragged-right]
3937 \score {
3938   \relative {
3939     % Visible tempo marking
3940     \tempo 4=120
3941     a'4 a a
3942     \once \omit Score.MetronomeMark
3943     % Invisible tempo marking to lengthen fermata in MIDI
3944     \tempo 4=80
3945     a4\fermata |
3946     % New tempo for next section
3947     \tempo 4=100
3948     a4 a a a |
3949   }
3950   \layout { }
3951   \midi { }
3952 }
3953 @end lilypond
3954
3955 @noindent
3956 両方の手段とも、フェルマータ部分の演奏時間を伸ばすメトロノーム記号を@c
3957 出力から削除していて、両方とも MIDI の演奏に必要な効果を与えています。@c
3958 しかし、1 番目の例の透明なメトロノーム記号がそれに続く拍子指示を@c
3959 上に押し上げているのに対して、2 番目のメトロノーム記号 (ステンシルが@c
3960 削除されたもの) は押し上げていません。
3961
3962 @seealso
3963 音楽用語集:
3964 @rglos{system}
3965
3966
3967 @node 調整のために変数を使用する
3968 @subsection 調整のために変数を使用する
3969 @translationof Using variables for tweaks
3970
3971 @cindex variables, using for tweaks (調整のために変数を使用する)
3972 @cindex using variables for tweaks (調整のために変数を使用する)
3973 @cindex tweaks, using variables for (調整のために変数を使用する)
3974
3975 オーバライド コマンドはしばしば長く、入力するのが大変なものになります。@c
3976 そして、それらは完全に正しく記述されなければなりません。@c
3977 同じオーバライドが何度も使用される場合、それらを保持する変数を定義すると@c
3978 非常に役に立ちます。
3979
3980 歌詞の中のある特定の単語をボールド イタリック体で譜刻することによって、@c
3981 それらを強調したいと仮定します。@c
3982 歌詞の中では、@code{\italic} と @code{\bold} は (書式を) 変更したい@c
3983 単語や文と一緒に @code{\markup} ブロックの中に入れた場合にのみ@c
3984 機能しますが、それを毎回入力するのは大変です。@c
3985 埋め込む必要のある単語自体が、2 つのコマンドを簡単な変数を用いて使うことを@c
3986 妨げます。@c
3987 代替手段として、@code{\override} コマンドと @code{\revert} コマンドを@c
3988 使うことはできないでしょうか?
3989
3990 @example
3991 @code{\override Lyrics.LyricText.font-shape = #'italic}
3992 @code{\override Lyrics.LyricText.font-series = #'bold}
3993
3994 @code{\revert Lyrics.LyricText.font-shape}
3995 @code{\revert Lyrics.LyricText.font-series}
3996 @end example
3997
3998 これらも、強調する必要のある単語がたくさんある場合、入力するのが@c
3999 非常に大変です。@c
4000 しかしながら、これらは 2 つの変数として定義することが@emph{でき}、@c
4001 それらの変数で単語を囲むことによって使ってその単語を強調することが@c
4002 @emph{できます}。@c
4003 これらのオーバライドに変数を用いることのもう 1 つの利点は、@c
4004 ドットの両側にスペースを置く必要が無いことです。@c
4005 なぜなら、これらのオーバライドは @code{\lyricmode} の中で@c
4006 直接解釈されるわけではないからです。@c
4007 ここで変数を用いる例を挙げますが、実際には早く打ち込めるように@c
4008 もっと短い変数名を使用します:
4009
4010 @cindex LyricText, example of overriding (LyricText をオーバライドする例)
4011 @cindex font-shape property, example (font-shape プロパティの例)
4012 @cindex font-series property, example (font-series プロパティの例)
4013
4014 @lilypond[quote,verbatim]
4015 emphasize = {
4016   \override Lyrics.LyricText.font-shape = #'italic
4017   \override Lyrics.LyricText.font-series = #'bold
4018 }
4019
4020 normal = {
4021   \revert Lyrics.LyricText.font-shape
4022   \revert Lyrics.LyricText.font-series
4023 }
4024
4025 global = { \key c \major \time 4/4 \partial 4 }
4026
4027 SopranoMusic = \relative { c'4 | e4. e8 g4 g    | a4   a   g  }
4028 AltoMusic    = \relative { c'4 | c4. c8 e4 e    | f4   f   e  }
4029 TenorMusic   = \relative  { e4 | g4. g8 c4.  b8 | a8 b c d e4 }
4030 BassMusic    = \relative  { c4 | c4. c8 c4 c    | f8 g a b c4 }
4031
4032 VerseOne = \lyrics {
4033   E -- | ter -- nal \emphasize Fa -- ther, | \normal strong to save,
4034 }
4035
4036 VerseTwo = \lyricmode {
4037   O | \once \emphasize Christ, whose voice the | wa -- ters heard,
4038 }
4039
4040 VerseThree = \lyricmode {
4041   O | \emphasize Ho -- ly Spi -- rit, | \normal who didst brood
4042 }
4043
4044 VerseFour = \lyricmode {
4045   O | \emphasize Tri -- ni -- ty \normal of | love and pow'r
4046 }
4047
4048 \score {
4049   \new ChoirStaff <<
4050     \new Staff <<
4051       \clef "treble"
4052       \new Voice = "Soprano"  { \voiceOne \global \SopranoMusic }
4053       \new Voice = "Alto" { \voiceTwo \AltoMusic }
4054       \new Lyrics \lyricsto "Soprano" { \VerseOne }
4055       \new Lyrics \lyricsto "Soprano" { \VerseTwo }
4056       \new Lyrics \lyricsto "Soprano" { \VerseThree }
4057       \new Lyrics \lyricsto "Soprano" { \VerseFour }
4058     >>
4059     \new Staff <<
4060       \clef "bass"
4061       \new Voice = "Tenor" { \voiceOne \TenorMusic }
4062       \new Voice = "Bass"  { \voiceTwo \BassMusic }
4063     >>
4064   >>
4065 }
4066 @end lilypond
4067
4068
4069 @node スタイル シート
4070 @subsection スタイル シート
4071 @translationof Style sheets
4072
4073 LilyPond が作り出す出力にはさまざまな変更を加えることができます
4074 (詳細は @ref{出力を調整する} を参照してください)。@c
4075 しかしながら、調整を加えたい入力ファイルがたくさんあるとしたらどうでしょう?@c
4076 また、単に調整を実際の音楽表記から分離したいとしたらどうでしょう?@c
4077 これはとても簡単なことです。
4078
4079 以下の例を見てみましょう。@c
4080 @code{#()} を持つ部分を理解できなくても心配しないでください。@c
4081 @ref{Scheme を用いた高度な調整} で説明されています。
4082
4083 @lilypond[quote,verbatim,ragged-right]
4084 mpdolce =
4085 #(make-dynamic-script
4086   #{ \markup { \hspace #0
4087                \translate #'(5 . 0)
4088                \line { \dynamic "mp"
4089                        \text \italic "dolce" } }
4090   #})
4091
4092 inst =
4093 #(define-music-function
4094      (string)
4095      (string?)
4096    #{ <>^\markup \bold \box #string #})
4097
4098 \relative {
4099   \tempo 4=50
4100   a'4.\mpdolce d8 cis4--\glissando a |
4101   b4 bes a2 |
4102   \inst "Clarinet"
4103   cis4.\< d8 e4 fis |
4104   g8(\! fis)-. e( d)-. cis2 |
4105 }
4106 @end lilypond
4107
4108 @code{mpdolce} と @code{tempoMark} の定義に手を加えてみることにします。@c
4109 それらは望みの出力を作り出していますが、それらを別の楽曲で使いたいとします。@c
4110 単純にそれらを各ファイルの先頭部分にカット&ペーストすることもできますが、@c
4111 わずらわしいです。@c
4112 その方法では定義は依然として入力ファイルの中にあり、@c
4113 私は個人的にすべての @code{#()} は何か醜いと感じます。@c
4114 それらを他のファイルの中に隠すことにしましょう:
4115
4116 @example
4117 %%% これを "definitions.ily" というファイル名で保存してください
4118 mpdolce =
4119 #(make-dynamic-script
4120   #@{ \markup @{ \hspace #0
4121                \translate #'(5 . 0)
4122                \line @{ \dynamic "mp"
4123                        \text \italic "dolce" @} @}
4124   #@})
4125
4126 inst =
4127 #(define-music-function
4128      (string)
4129      (string?)
4130    #@{ <>^\markup \bold \box #string #@})
4131 @end example
4132
4133 音楽ファイルの先頭付近で @code{\include} コマンドを使ってこのファイルを@c
4134 参照します。@c
4135 (インクルードされるファイルをコンパイルされるメイン ファイルと区別するため、@c
4136 拡張子 @file{.ily} を使っています。)
4137 今度は音楽ファイルを変更しましょう
4138 (このファイルを @file{"music.ly"} として保存してください)。
4139
4140 @c  We have to do this awkward example/lilypond-non-verbatim
4141 @c  because we can't do the \include stuff in the manual.
4142
4143 @example
4144 \include "definitions.ily"
4145
4146 \relative @{
4147   \tempo 4=50
4148   a'4.\mpdolce d8 cis4--\glissando a |
4149   b4 bes a2 |
4150   \inst "Clarinet"
4151   cis4.\< d8 e4 fis |
4152   g8(\! fis)-. e( d)-. cis2 |
4153 @}
4154 @end example
4155
4156 @lilypond[quote,ragged-right]
4157 mpdolce =
4158 #(make-dynamic-script
4159   #{ \markup { \hspace #0
4160                \translate #'(5 . 0)
4161                \line { \dynamic "mp"
4162                        \text \italic "dolce" } }
4163   #})
4164
4165 inst =
4166 #(define-music-function
4167      (string)
4168      (string?)
4169    #{ <>^\markup \bold \box #string #})
4170
4171 \relative {
4172   \tempo 4=50
4173   a'4.\mpdolce d8 cis4--\glissando a |
4174   b4 bes a2 |
4175   \inst "Clarinet"
4176   cis4.\< d8 e4 fis |
4177   g8(\! fis)-. e( d)-. cis2 |
4178 }
4179 @end lilypond
4180
4181 これで前よりも良くなりましたが、いくつか変更を加えることにします。@c
4182 グリッサンド (訳者: 第 1 小節の C シャープと A の間) は見え難いので、@c
4183 もっと太く、符頭に近づけます。@c
4184 メトロノーム記号を、最初の音符の上ではなく、@c
4185 音部記号の上に持ってきます。@c
4186 最後に、私の作曲の先生は @q{C} 拍子記号を嫌っているので、@c
4187 @q{4/4} に変更した方が良さそうです。
4188
4189 @file{music.ly} には変更を加えないでください。@c
4190 @file{definitions.ily} を以下のように書き換えます:
4191
4192 @example
4193 %%%  definitions.ily
4194 mpdolce =
4195 #(make-dynamic-script
4196   #@{ \markup @{ \hspace #0
4197                \translate #'(5 . 0)
4198                \line @{ \dynamic "mp"
4199                        \text \italic "dolce" @} @}
4200   #@})
4201
4202 inst =
4203 #(define-music-function
4204      (string)
4205      (string?)
4206    #@{ <>^\markup \bold \box #string #@})
4207
4208 \layout@{
4209   \context @{
4210     \Score
4211     \override MetronomeMark.extra-offset = #'(-5 . 0)
4212     \override MetronomeMark.padding = #'3
4213   @}
4214   \context @{
4215     \Staff
4216     \override TimeSignature.style = #'numbered
4217   @}
4218   \context @{
4219     \Voice
4220     \override Glissando.thickness = #3
4221     \override Glissando.gap = #0.1
4222   @}
4223 @}
4224 @end example
4225
4226 @lilypond[quote,ragged-right]
4227 mpdolce =
4228 #(make-dynamic-script
4229   #{ \markup { \hspace #0
4230                \translate #'(5 . 0)
4231                \line { \dynamic "mp"
4232                        \text \italic "dolce" } }
4233   #})
4234
4235 inst =
4236 #(define-music-function
4237      (string)
4238      (string?)
4239    #{ <>^\markup \bold \box #string #})
4240
4241 \layout{
4242   \context {
4243     \Score
4244     \override MetronomeMark.extra-offset = #'(-5 . 0)
4245     \override MetronomeMark.padding = #'3
4246   }
4247   \context {
4248     \Staff
4249     \override TimeSignature.style = #'numbered
4250   }
4251   \context {
4252     \Voice
4253     \override Glissando.thickness = #3
4254     \override Glissando.gap = #0.1
4255   }
4256 }
4257
4258 \relative {
4259   \tempo 4=50
4260   a'4.\mpdolce d8 cis4--\glissando a |
4261   b4 bes a2 |
4262   \inst "Clarinet"
4263   cis4.\< d8 e4 fis |
4264   g8(\! fis)-. e( d)-. cis2 |
4265 }
4266 @end lilypond
4267
4268 もっと良くなりました!@c
4269 今度はこれを公表したいとします。@c
4270 私の作曲の先生は @q{C} 拍子記号を嫌っていますが、@c
4271 私はそちらを好みます。@c
4272 現在の @code{definitions.ily} を @code{web-publish.ily} にコピーして、@c
4273 それにを変更を加えてみましょう。@c
4274 この音楽はスクリーンに表示される PDF を作り出すことを意図したものなので、@c
4275 出力のフォントを全体に大きくすることにします。
4276
4277 @example
4278 %%%  web-publish.ily
4279 mpdolce =
4280 #(make-dynamic-script
4281   #@{ \markup @{ \hspace #0
4282                \translate #'(5 . 0)
4283                \line @{ \dynamic "mp"
4284                        \text \italic "dolce" @} @}
4285   #@})
4286
4287 inst =
4288 #(define-music-function
4289      (string)
4290      (string?)
4291    #@{ <>^\markup \bold \box #string #@})
4292
4293 #(set-global-staff-size 23)
4294
4295 \layout@{
4296   \context @{
4297     \Score
4298     \override MetronomeMark.extra-offset = #'(-5 . 0)
4299     \override MetronomeMark.padding = #'3
4300   @}
4301   \context @{
4302     \Staff
4303   @}
4304   \context @{
4305     \Voice
4306     \override Glissando.thickness = #3
4307     \override Glissando.gap = #0.1
4308   @}
4309 @}
4310 @end example
4311
4312 @lilypond[quote,ragged-right]
4313 mpdolce =
4314 #(make-dynamic-script
4315   #{ \markup { \hspace #0
4316                \translate #'(5 . 0)
4317                \line { \dynamic "mp"
4318                        \text \italic "dolce" } }
4319   #})
4320
4321 inst =
4322 #(define-music-function
4323      (string)
4324      (string?)
4325    #{ <>^\markup \bold \box #string #})
4326
4327 #(set-global-staff-size 23)
4328
4329 \layout{
4330   \context { \Score
4331     \override MetronomeMark.extra-offset = #'(-5 . 0)
4332     \override MetronomeMark.padding = #'3
4333   }
4334   \context { \Voice
4335     \override Glissando.thickness = #3
4336     \override Glissando.gap = #0.1
4337   }
4338 }
4339
4340 \relative {
4341   \tempo 4=50
4342   a'4.\mpdolce d8 cis4--\glissando a |
4343   b4 bes a2 |
4344   \inst "Clarinet"
4345   cis4.\< d8 e4 fis |
4346   g8(\! fis)-. e( d)-. cis2 |
4347 }
4348 @end lilypond
4349
4350 音楽ファイルの中では、単に @code{\include "definitions.ily"} を
4351 @code{\include "web-publish.ily"} に置き換えるだけです。@c
4352 もちろん、これをもっと便利なようにすることができます。@c
4353 @file{definitions.ily} ファイルには
4354 @code{mpdolce} と @code{tempoMark} の定義だけを持たせて、@c
4355 @file{web-publish.ily} ファイルには@c
4356 上で記述した @code{\layout} セクションだけを持たせ、@c
4357 @file{university.ily} ファイルには@c
4358 私の先生の好む出力を作り出すための調整だけを持たせます。@c
4359 @file{music.ly} の先頭部分は以下のようになります:
4360
4361 @example
4362 \include "definitions.ily"
4363
4364 %%%  以下の 2 行のどちらか片方のコメントを外してください!
4365 \include "web-publish.ily"
4366 %\include "university.ily"
4367 @end example
4368
4369 このアプローチは、@c
4370 あなたがパーツ一式を作っているだけだとしても役に立つ可能性があります。@c
4371 私は自分のプロジェクトのために@c
4372 半ダースの @q{スタイル シート} ファイルを使います。@c
4373 私はそれぞれの音楽ファイルを
4374 @code{\include "../global.ily"} で始め、@c
4375 @file{gloval.ily} には以下の内容を記述しています:
4376
4377 @example
4378 %%%   global.ily
4379 \version @w{"@version{}"}
4380
4381 #(ly:set-option 'point-and-click #f)
4382
4383 \include "../init/init-defs.ly"
4384 \include "../init/init-layout.ly"
4385 \include "../init/init-headers.ly"
4386 \include "../init/init-paper.ly"
4387 @end example
4388
4389
4390 @node その他の情報源
4391 @subsection その他の情報源
4392 @translationof Other sources of information
4393
4394 内部リファレンスは LilyPond についての多くの情報を持っていますが、@c
4395 LilyPond の内部ファイルを調べることによって@c
4396 さらに多くの情報を収集することができます。@c
4397 内部ファイルを探究するには、@c
4398 まずあなたの使っているシステム特有のディレクトリを見つけ出す必要があります。@c
4399 このディレクトリの場所は、(a) あなたが lilypond.org からコンパイル済みの@c
4400 バイナリをダウンロードすることによって LilyPond を手に入れたのか、@c
4401 それとも、パッケージ マネージャから LilyPond をインストールした
4402 (つまり、GNU/Linux と一緒に配布されたか、fink や cygwin でインストールされた)
4403 のか、(b) LilyPond はどの OS 上で使用されているのか、に依存します:
4404
4405 @subsubsubheading lilypond.org からダウンロードした
4406
4407 @itemize @bullet
4408 @item GNU/Linux
4409
4410 @example
4411 @file{@var{INSTALLDIR}/lilypond/usr/share/lilypond/current/}
4412 @end example
4413 に進んでください
4414
4415 @item MacOS X
4416
4417 @example
4418 @file{@var{INSTALLDIR}/LilyPond.app/Contents/Resources/share/lilypond/current/}
4419 @end example
4420 に進んでください。@c
4421 ターミナルからこのディレクトリへ @code{cd} で移動するか、@c
4422 LilyPond アプリケーション上でコントロール クリックして
4423 @q{Show Package Contents} を選択します。
4424
4425 @item Windows
4426
4427 @example
4428 @file{@var{INSTALLDIR}/LilyPond/usr/share/lilypond/current/}
4429 @end example
4430 に進んでください。Windows Explorer を使います。
4431
4432 @end itemize
4433
4434 @subsubsubheading パッケージ マネージャからインストールした、あるいは、ソースからコンパイルした
4435
4436 @file{@var{PREFIX}/share/lilypond/@var{X.Y.Z}/} に進んでください。@c
4437 @var{PREFIX} はパッケージ マネージャか @code{configure} スクリプトによって@c
4438 セットされるものであり、@var{X.Y.Z} は LilyPond のバージョン番号です。
4439
4440 @smallspace
4441
4442 このディレクトリの中に 2 つの興味深いサブディレクトリがあります:
4443
4444 @itemize
4445 @item @file{ly/} - LilyPond フォーマットに関するファイルを保持しています
4446 @item @file{scm/} -Scheme フォーマットに関するファイルを保持しています
4447 @end itemize
4448
4449 @file{ly/} の中にあるファイルから見ていきましょう。@c
4450 @file{ly/property-init.ly} をテキスト エディタで開いてください。@c
4451 エディタはあなたが普段 @code{.ly} ファイルを編集するために使っているもので@c
4452 結構です。@c
4453 このファイルは標準の LilyPond 定義済みコマンド
4454 -- @code{\stemUp} や @code{\slurDotted} など
4455 -- のすべての定義を保持しています。@c
4456 1 つまたは複数の @code{\override} コマンドを保持している@c
4457 変数の定義以外のものはないということがわかるでしょう。@c
4458 例えば、@code{\tieDotted} は以下のように定義されています:
4459
4460 @example
4461 tieDotted = @{
4462   \override Tie.dash-period = #0.75
4463   \override Tie.dash-fraction = #0.1
4464 @}
4465 @end example
4466
4467 あなたがこれらのデフォルト値を好まない場合、これらの定義済みコマンドを@c
4468 容易に再定義することができます --
4469 他の変数と同様に、入力ファイルの先頭で定義します。
4470
4471 以下のファイルは @file{ly/} で見つかる有用なファイルです:
4472
4473 @multitable @columnfractions .4 .6
4474 @headitem ファイル名
4475   @tab 内容
4476 @item @file{ly/engraver-init.ly}
4477   @tab エングラーバ コンテキストの定義
4478 @item @file{ly/paper-defaults-init.ly}
4479   @tab 紙面関係のデフォルトの仕様
4480 @item @file{ly/performer-init.ly}
4481   @tab パフォーマ コンテキストの定義
4482 @item @file{ly/property-init.ly}
4483   @tab すべての共通定義済みコマンドの定義
4484 @item @file{ly/spanner-init.ly}
4485   @tab スパナ関係の定義済みコマンドの定義
4486 @end multitable
4487
4488 他の設定 (マークアップ コマンドの定義など) は
4489 @code{.scm} (Scheme) ファイルとして保存されています。@c
4490 Scheme プログラミング言語は、LilyPond 内部処理へのプログラム可能な@c
4491 インタフェイスを提供するために使用されます。@c
4492 これらのファイルについての詳しい説明は、Scheme 言語についての知識が@c
4493 必要となるため、このマニュアルの範囲外です。@c
4494 Scheme 言語とこれらのファイルを理解するには、十分な知識や時間が@c
4495 必要であるということを知っておくべきです
4496 (@rextend{Scheme tutorial} を参照してください)。
4497
4498 あなたがこの知識を持っているのなら、興味を持つかもしれない Scheme ファイルは@c
4499 以下のものです:
4500
4501 @multitable @columnfractions .4 .6
4502 @headitem ファイル名
4503   @tab 内容
4504 @item @file{scm/auto-beam.scm}
4505   @tab サブ 連桁のデフォルト (訳者: 8 分音符には連桁だけが使用され、@c
4506 16 分音符やそれよりも短い音符には連桁とサブ 連桁が使われるのだと思います)
4507 @item @file{scm/define-grobs.scm}
4508   @tab Grob (グラフィカル オブジェクト) プロパティのデフォルト設定
4509 @item @file{scm/define-markup-commands.scm}
4510   @tab すべてのマークアップ コマンドの仕様
4511 @item @file{scm/midi.scm}
4512   @tab MIDI 出力のデフォルト設定
4513 @item @file{scm/output-lib.scm}
4514   @tab フレット、色、臨時記号、小節線などの見た目に影響を与える設定
4515 @item @file{scm/parser-clef.scm}
4516   @tab サポートされる音部記号の定義
4517 @item @file{scm/script.scm}
4518   @tab アーティキュレーションのデフォルト設定
4519 @end multitable
4520
4521
4522 @node Scheme を用いた高度な調整
4523 @subsection Scheme を用いた高度な調整
4524 @translationof Advanced tweaks with Scheme
4525
4526 @code{\override} と @code{\tweak} コマンドを用いることで@c
4527 多くのことが可能になりますが、LilyPond のアクションを変更するもっと強力な手段が
4528 LilyPond 内部処理へのプログラム可能なインタフェイスを通じて利用可能です。@c
4529 Scheme プログラミング言語で書かれたコードは LilyPond の内部処理に@c
4530 直接組み込むことができます。@c
4531 もちろん、それを行うには Scheme プログラミングについての基礎知識が必要であり、@c
4532 その手引きが @rextend{Scheme tutorial} で提供されています。
4533
4534 多くの実現可能なことの 1 つの例としては、プロパティに定数をセットする代わりに
4535 Scheme プロシージャをセットすることができます。@c
4536 このプロパティが LilyPond によってアクセスされたときに、@c
4537 このプロシージャが呼び出されます。@c
4538 このプロシージャが呼び出されたときに、このプロシージャによって決定された@c
4539 値を動的にそのプロパティにセットすることができます。@c
4540 以下の例では、符頭にその音符の譜上での位置に従って色を付けています:
4541
4542 @cindex x11-color function, example of using (x11-color 関数の使用方法)
4543 @cindex NoteHead, example of overriding (NoteHead をオーバライドする例)
4544 @cindex color property, setting to Scheme procedure (Scheme プロシージャに color プロパティをセットする)
4545
4546 @c KEEP LY
4547 @lilypond[quote,verbatim,ragged-right]
4548 #(define (color-notehead grob)
4549    "Color the notehead according to its position on the staff."
4550    (let ((mod-position (modulo (ly:grob-property grob 'staff-position)
4551                                7)))
4552      (case mod-position
4553        ;;   Return rainbow colors
4554        ((1) (x11-color 'red    ))  ; for C
4555        ((2) (x11-color 'orange ))  ; for D
4556        ((3) (x11-color 'yellow ))  ; for E
4557        ((4) (x11-color 'green  ))  ; for F
4558        ((5) (x11-color 'blue   ))  ; for G
4559        ((6) (x11-color 'purple ))  ; for A
4560        ((0) (x11-color 'violet ))  ; for B
4561        )))
4562
4563 \relative {
4564   % Arrange to obtain color from color-notehead procedure
4565   \override NoteHead.color = #color-notehead
4566   a2 b | c2 d | e2 f | g2 a |
4567 }
4568 @end lilypond
4569
4570 @rextend{Callback functions} に、これらのプログラム可能なインタフェイスの@c
4571 使い方を示している例がもっとあります。
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